――「期待しない」となると、まるで子どもを見捨てたり、子育てを放棄したりしているような気持ちになる親もいます。そのジレンマについては、どうお考えですか?

 多くの親は「子どもの能力を伸ばす」ことを子育ての前提ととらえ、期待しないことは見捨てることだと誤解しがちです。けれど本当に大切なのは、成績や出席状況に関わらず子どもを大事にすること。学歴や将来の選択は、思春期を越えてから本人が決めるものです。それまでの小中学校時代は、安全な環境で、安心して親から「見守られている」「助けてもらえる」という感覚を育む時期。親が無理に能力を引き上げるのではなく、子どもが自らやりたいことに挑戦できるよう、心の土台を整える準備期間だと考えてほしいのです。心の土台が整わないと、成人期もメンタルヘルスの不調が続くリスクが高くなります。

――児童精神科医として、夏休み明けに学校へ行きたがらないお子さんやその家族へのメッセージをお願いします。

 不登校の背景は子どもによってさまざまで、原因も一つではありません。ただし、共通して言えるのは、人には安心できる状態で居続けたい気持ちと、同じ状況が続くと飽きてしまう気持ちの両方があります。ずっと休みであれば安心かというと、そうとも限りません。時々気分転換があるほうが安定しやすく、学校も本来は行ったり休んだりするくらいがちょうどいいのです。学校へ行くことはノルマではありません。子どもにも無理をしてほしくありませんが、親もまた無理をせず、「学校に行かないこと」以外は平和な家庭でいることを心がけてほしいと思います。

(取材・文/高橋亜矢子)

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高橋亜矢子
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