照月さんのチームは2021年にも似たしくみのロボットを作ったが、そのとき探索できた距離は2m程度だった。結果に満足できなかったチームはさらに研究と改良を重ね、5mまで探索できるロボットを完成させたのだ。どこをどう改良したのだろうか。
「止まりながら探索する」昆虫の動きをまねて性能アップ!
今回の性能アップをもたらした改良は、大きく二つある。
一つは、ロボットの前部に取り付けたカバーだ。ドローンは四隅にプロペラが配置されている。その回転によって前後・左右に対称的な空気の流れができるので、そのままでは匂いがどの方向から来るのか判断しづらい。そこで、EAGセンサーを前に突き出たカバーで覆うことによって、風をセンサーに誘い込むようにしたのだと照月さんは語る。
「ガは羽ばたくことによって、匂いを自分のほうに引き寄せます。私たちはガの羽ばたきを研究し、カバーの形や取り付け位置などにも工夫をこらしました。これにより、匂いが来る方向に向かって左右45度(計90度)という狭い範囲で強く匂いを検出できるようになりました」
もう一つは、昆虫の匂いを探る方法をまねたことだ。
「昆虫は匂いを探るとき、常に移動し続けるのではなく、時々止まることが調べられています。そこで、120度回転して停止、また120度回転して停止を繰り返して匂いを探り、その後直進……というような動きをドローンの動きにも採り入れました。ドローンは、回転中にキャッチした匂いの情報を計算し、匂いの来る方向を推定してその方向に直進します。これにより匂いを探索する精度を、2021年のロボットに比べ2倍以上に高めることができました」
目指すは被災者を匂いで探す「災害救助ドローンロボット」
このドローンロボットの開発には、一つの目的がある。災害が起きたときに救助が必要な人を、匂いから探して救い出すのに使おうというのだ。ただし、人を探す場合はカイコガの触角ではなく、人の匂いをかぎ分ける蚊(カ)の触角を使う。照月さんらはその研究も始め、3~5年をめどに人を探し出すロボットの原型を発表できたらと考えている。
「嗅覚に関して、人間の科学技術は小さな昆虫にまったく及びません。だから、昆虫の体の一部を使わせてもらうことには価値があると思います。私たちは自然の生物から、まだまだたくさんのことを学ばなければなりません」

(文/上浪春海 画像・資料提供/信州大学繊維学部 照月大悟准教授 図版/マカベアキオ)
朝日新聞出版

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