中でも強く印象に残っているのは、長男が小学生時代の「アントニオえのき」弁当です。長男もこれは覚えているはず。アントニオえのきとは、えのきと牛肉を焼き肉のたれでからめて炒めたおかずです。あるとき、長男がこのおかずが入ったお弁当を試合前に食べたら、歯にえのきがはさまってしまいました。「とれない!」とあわてていたので「えのきと“猪木”って似てない? はさまってるとホームランが打てるんだよ!」と言ってみたのです。ものすごいこじつけですが。
すると、本当に特大ホームランを打ったんです! その瞬間から、私たちの間でそのおかずの名前が「アントニオえのき」に決定(笑)。翌日はほかのお母さんたちもみんな作ってきたのですが、意外と子どもたちの歯にはさまらず、無理やりはさもうとして……本当に楽しい思い出です。これだけでチームの士気が上がったのも、お弁当の威力を感じた出来事でした。
お弁当って、こんなふうに子どもを奮起させるツールにも使えるんです。子どもは単純なので、ホームランが打てたりリレーの選手で活躍できたりすると「お弁当を食べたからかも!」という気になるんですよね。ですから、お母さんが女優になって子どもをその気にさせる。これ、おすすめです! ただし、小学校低学年くらいまでの期間限定ですが(笑)。
思い出を豊かにしてくれる。やっぱりお弁当ってすごい
―――楽しいエピソードですね。
練習や試合はもちろんですが、そのほかのちょっとした瞬間の思い出にも、お弁当は数多く登場して私の記憶を彩ってくれています。
そもそも、お弁当ってその「形」自体も記憶に残りやすいですよね。夕飯はご飯とみそ汁、野菜炒めや魚、お新香……と何品もあるので流れてしまいがちですが、お弁当は同じスペースにぎゅっと凝縮されているので、ふたを開けたときに一度ですべてが目に入る。この最初の印象が強いので、記憶に残りやすいのかもしれません。
時間がなくてササッとおにぎりを握るのも、お客さまが見える日に気合を入れて豪華な夕食を作るのも楽しいのですが、私はダントツでお弁当作りが好きです。それは、こんなふうに自分の記憶にも、人の記憶に残るから。やっぱりお弁当って最高!と心から感じます。
※後編<亜希が語る、子どもの弁当作りへの向き合い方 「作りたくても作れない日は確実にやってきます」>に続く
(取材・文/三宅智佳)
亜希