ハンセンさんが脳の仕組みやストレスにどう対応するかを紹介した著書は、スウェーデンの学校に無料で配布され、子どもたちからは、「ストレスと自分の心や体の仕組みがわかって安心した」と、知ることの大切さを実感する声がたくさん寄せられているそうです。
睡眠・運動・仲間がストレス耐性への近道
では、どうすればストレスに強いメンタルを育てることができるのでしょうか。「重要なのは『ストレスを感じないようにする』ことではなく、『ストレスへの耐性』をつけること」とハンセンさんは強調します。そのポイントは「良質な睡眠、運動、人とリアルに会うことの三つ」なのだそう。
「近年、子どもたちのメンタル不調が増えているのは、これらの三つが明らかに不足しているからです。その原因に『スマートフォン』が関係していることは間違いありません」
スウェーデンのティーンエージャーは1日3〜4時間もスマートフォンを見ているという調査もあり(*)、特に子どものメンタルへの影響が危惧されています。
「なぜならスマートフォンなどのデジタル機器の画面を見るスクリーンタイムが増えれば増えるほど、睡眠や運動、人と会う時間が失われてしまうからです。その結果、ストレスに対抗する力が弱くなって心や体のトラブルを抱えやすくなるのです」
刺激が大好きな脳にとって、次々と新しい情報を提供してくれるスマートフォンは、とても魅力的な存在です。それはまるで、空腹時、目の前においしいお菓子が「さあ、どうぞ」と置いてあるようなものです。
「そのような誘惑を断ち切るためにも、寝室にスマートフォンをもっていかないなど、物理的に距離をおくようなルールづくりが普段から必要でしょう。
もうひとつ、ぜひ知っておいていただきたいのは、スマートフォンなどのデジタル機器やさまざまなアプリは、それを開発して販売する企業が自分たちの利益のために作ったものだということです。企業にとって、私たちの心や体の健康は重要ではありません。企業の利益追求の活動に踊らされているのだ、ということを知るだけでも、スマートフォンとの付き合い方を違う視点で考えるきっかけになるのではないでしょうか」
(取材・執筆/工藤千秋 通訳/久山葉子)
*「スウェーデン人とインターネット」(2017)から。スウェーデン統計局のニュース(2023)では、「世界的には8~18歳のスクリーンタイム(スマートフォン、パソコン、テレビなど)が毎日7時間」というデータも。
※「AERA with Kids 2024年春号」(朝日新聞出版)から
朝日新聞出版