ミュージシャンの坂本美雨さんは、音楽と本に囲まれて育ったといいます。言葉のリズムを楽しむことから入った読書体験や子どものころに読んでいた本を教えてもらいました。現在発売中の「AERA with Kids 2022年秋号」(朝日新聞出版)から紹介します。
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私の言葉の原体験は、谷川俊太郎さんの詩です。子どものころ、母(矢野顕子)がよく、朗読会に連れていってくれました。ご本人が詩を朗読してくださるんですけど、言葉の響きやリズムがとっても楽しい。読書には、内容が面白いとか、メッセージに救われるとか、いろいろな楽しみ方がありますが、「意味すらわからなくても楽しい」という体験ができたことはとても大きかったです。
『長くつ下のピッピ』も大好きな作品です。ピッピはすごく力持ちで、やりたいことは何でもやってしまう。私の娘にも、ピッピのように社会のルールに縛られず、やりたいことに挑戦してほしいなと思います。
でも、親から「ルールを破れ」と言うのは、ちょっと違うかな。「なんで床に水まかないの?」とか「さあ木に登りなよ!」なんて言えないですし(笑)。だから娘には本を読んで「自分もやってみたい!」と思ってもらって、私はそれを止める役でありたいですね。
私の家族はみんな本が好きで、小さいころは本に囲まれて暮らしていました。編集者だった祖父の書庫が離れにあって、壁一面にぎっしりと本が並んでいたんです。昼間でも暗くて、じめじめしていてカビ臭くって、ちょっとこわい。そんな中でドキドキしながら面白そうな本を見つけ出しては読んだことを覚えています。
小学校高学年になると、父(坂本龍一)の書斎や兄の部屋に忍び込んで、ちょっと大人っぽい本をあさったりして。そこで『ノルウェイの森』を読んで、村上春樹さんにどっぷりとはまりました。
私にとって、本は選ぶものではなく、向こうから呼んでくれる感覚があるんです。まっさらな状態で本棚の前に立ったとき、たまたま目に留まった本こそ、そのときの自分に必要な、潜在意識で欲している本、という気がしています。
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