このような流れをさらに活気づけるのは、アメリカの食品医薬品局(FDA)が昨年11月、UPSIDE Foods社の培養肉を食肉として認可したことです。これで、近い将来日本の寿司ネタのマグロや蒲焼きのウナギも、培養で作られたものになるかもしれません。

 これらの新しい素材と日本の食材を組み合わせたメニューを考えるフードコンペティションが、昨年9月にイスラエルのロッシュハアインで行われ、5人のシェフがメニューを考えました。

 一人のシェフは、中東でよく食べられるナツメヤシ(デーツ)の搾りかすを醤油の技法で発酵させてソースを作り、刺し身にかけたメニューを考えました。代替肉によるステーキ餃子もありました。Zero Egg 社の商品を使った五目ご飯の卵巻きは、ほぼ日本の味を再現していました。このなかで優勝したのは、アルコールから作ったクリームを使ったケーキを、抹茶チョコでコーティングしたもの。これらは、従来の肉などに代わる新しい食材を使って、十分に今までのようにリッチな食生活が送れることを示していました。

 イスラエルでは、大学でもフードテックの研究が進んでいます。イスラエル北部にあるテルハイカレッジは、広大な農地の中にキャンパスがあります。ここのフードサイエンス学科では、いろいろなフードテック食材が学生により開発されています。学年末の発表会を前に、研究室前には周辺の畑から採れた形のいびつな野菜や売り物にならない果物が山積みです。ある学生グループが作っていたのは「トマトを使わないトマトソース」。それを作ろうと思った理由を聞いたら、「友人がトマトアレルギーで、みんながよく食べるトマトソースのスパゲティが食べられないから」ということでした。いろいろな赤みのある野菜を組み合わせて、トマトの成分に近づけて味をつくっているそうです。イスラエルの大手食品会社もこの研究室のアドバイザーとして研究発表会をサポートしています。

 現在、地球環境の破壊が懸念されています。国連では17の持続可能な開発目標を作り、2030年までの達成目標としています。フードテックはこのうち7つの課題の解決につながります。エジプトで行われた2022年国連気候変動会議では、初めてイスラエルのパビリオンが作られ、10社が選ばれて参加しましたが、そのうちの2社はフードテック企業でした。各社とも始まりはとても単純な動機です。それを形にするための技術と努力、そして人びとの連携が、今のフードテックをかたちづくっています。Alfred’s社のマリーナさんは、大手製薬会社から転職した理由として話してくれたのは、「自分たちの作る技術が将来世界のためになるかもしれない、という夢が毎日感じられるから」でした。

(文/中島ヤスミン)

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