まさに、自分の口に入る米、魚、肉、野菜に、人の「徳」が隠れているということと同じです。だとすれば「自分は大切なものを頂いているのだ」という感謝の気持ちがわき、「いただきます」「御馳走さま」という言葉も自然と口から出てくるのではないでしょうか。ちなみに、「馳走」とは、走り回って面倒をみるように「世話をする」という意味で、「御馳走さま」は人が手間暇をかけてくれたことに対する感謝の気持ちを表します。

 ところで、息子さんが感謝の気持ちを胸に抱いて暮らしていく場合と、そうではない場合とでは、将来、大人になってから社会との関わり方などに大きな違いが出ることも、父親である相談者さんは忘れないでください。

『論語』の有名な章句のひとつに、「性相(せいあ)い近きなり。習(なら)い相い遠きなり」(陽貨第十七)があります。

「人間の生まれついた天性は似たり寄ったりでそんなに個人差はない。ただ、後天的な習慣や教育で、人間には善悪や賢愚の差異ができ、互いに遠いものとなる」という意味です。

 アレルギーなど、体が受けつけないものを無理に食べる必要はありません。ですが、感謝の気持ちで食事をすることを、どうぞ、小学1年生の息子さんに習慣づけてあげてください。自分が不自由なく生きていられるのは、見えない糸で紡がれた、多くの人たちとの関わり合いのおかげなのだという気持ちを、小さな時から感じるようにしてほしいと思います。重ねて言いますが、食事の時の「いただきます」「御馳走さま」は、感謝の表れです。この感謝の気持ちこそ、人が平和に明るい社会で共存するための基本なのです。

【まとめ】

好き嫌いより、給食ができるまでに関わった人への「徳」へ感謝の気持ちがあるか。「いただきます」「御馳走さま」を習慣づけよう

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ 0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。

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山口謠司(やまぐち・ようじ)/文献学者・中国学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞。『ステップアップ0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など著書多数。母親向けの論語講座も開催。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族

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