【解説】
食べ物の好き嫌いは、だれにでもありますよね。好き嫌いがあること自体はわがままではありません。でも、好き嫌いの前に質問をさせてください。相談者さんも息子さんも、「いただきます」「御馳走さま」と、食事の前と後に感謝の言葉を言っていますか? 必ずしも、両手を合わせて言う必要はありませんが。
わが国には「一汁三菜」という言葉があります。主食となる「ご飯」に1杯の「みそ汁」、肉や魚、野菜などで作った「3種のおかず」という、「膳立て」とも呼ばれる和食の基本です。給食も、こうした考えをもとに、栄養士が子どもたちの健康を考えて献立を作り、材料を調達し、毎日、調理員の方々が調理をしてくれています。それでは、この一回の給食を作るために、どれだけの人や時間が必要かと、考えたことがありますか?
米一粒だけでも、まだ寒い2月か3月に、苗床を作って種をまき、5月に田植えができるまで育て、田植え機で田植えをします。精密な田植え機は非常に高価で、この機械を作るだけでも相当の時間と人の知恵が必要です。苗が大きく育つまでには、夏の盛りに、台風や干ばつなどの被害を受けないように、農家の人は額に汗して草取りや用水路の掃除・補修などをしなくてはなりません。秋の実りには、刈り取り、脱穀をする機材も必要ですね。
こうして作られた米は、味や品質の検査などを経て出荷されるのですが、人の口に入るためには、この後も米の売買、調理の手が必要です。もちろん、米だけではありません。野菜、肉、魚など、あらゆる食物が自分の口に入るためには、ものすごい時間と、人の手間がかかっているのです。
さて、人としての生き方を説いた『論語』には、こんな言葉があります。
「驥(き)は其(そ)の力を称せず。其の徳を称するなり」(憲問第十四)
「名馬」と呼ばれる馬は、その能力だけをほめられるものではありません。馬は、調教した人がいるからこそ「名馬」に育つのだから、その「名馬」を育てた人の「徳」があることを忘れてはならないと言う意味です。
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