一方で、最近の科学の進歩はめざましく、原器を使わなくても、より高精度に長さや重さをはかる方法が見つかってきた。そこで、重さよりも一足先に、長さの単位となる1mは、1983年に「光の速度」(※2)をもとに定義し直された。科学技術を利用して、真空中で常に一定な光の速度を、驚くほど精密に測れるようになったのだ。それをもとに、1mは「“1秒の2億9979万2458分の1”の時間に真空中を光が進む距離」と定められた。これで、国際メートル原器は必要がなくなった。
同じように、1kgの基準も見直すことになった。新しい基準として最適と考えられたのは「原子」だ。原子とは、物質をつくっている基本的な粒のことで、その重さは、光の速度と同じように、いつ、どこでも一定で、変わることはない。
原子を重さの基準とするには、原子1個の重さを精密に測定すればいい。そこで、各国で原子1個の重さをそれぞれの国が得意な方法で測定し、その結果を持ち寄って、新しい重さの基準を決めることになった。
■新しい定義なら、いつでもどこでも不変で1兆分の1gまで量れる!
日本からは、産業技術総合研究所が、原子の数から測定する方法で参加した。1種類の原子だけでできた物体中の原子の数を数えることができれば、例えば「1kg中に???個」というように、重さと個数の関係がわかる。そこで、シリコン原子だけでできた結晶で1kgの球をつくり、その体積を精密に測定して、中に含まれる原子の数を求めた。さらに、球の重さも精密に測定して、シリコン原子1個の質量を求めたのだ。
この測定データをほかの国の研究所の測定データと比べ、検討した結果、原子を重さの基準とするために必要な「プランク定数」が決まった。聞き慣れない言葉だが、「量子力学」(※3)で物質やエネルギーのしくみを解き明かすために重要なものだ。大人でも理解が難しいから、科学で使う“特別な数”だと理解しておけばいい。このプランク定数を正確に決めることで、計算によって1kgを高い精度で表すことが可能になったのだ。
次のページへ量れる最小の重さは「1千万分の1g」くらいだったが…