ノーベル平和賞受賞者のスピーチが、全世界で話題となった。世界を動かした勇気ある女性の声とは? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された記事を紹介する。

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 たったひとりの勇気が、世界を動かす。2018年12月10日、ノルウェーの首都オスロで開かれたノーベル平和賞授賞式は、その歴史的瞬間になった。

 2人の受賞者のうちのひとり、25歳のナディア・ムラド・バセ・タハさんは、4年前、イラク北部の故郷が過激派組織「イスラム国」(IS)に襲われた、ヤジディ教徒(※)の性暴力被害者だ。ドイツに逃れた彼女は傷を癒やすことに専念することもできたが、自分が傷つくことを恐れず、ISによる組織的な性暴力を告発する道を選んだ。声を上げる勇気が評価されてノーベル平和賞を受賞した。

 ムラドさんはたびたび国際社会に向けて発言している。国連親善大使に就任した16年のスピーチからムラドさんの経験や思いをたどってみよう。

「私は集団殺害の生存者です」と切り出したムラドさん。村人をヤジディ教からイスラム教へ改宗させようとしたISは、改宗を拒否されると村の男性と高齢女性をすべて処刑したという。「彼らは私の母と6人の兄弟を殺し、ヤジディの女性と子ども約6500人を拉致しました」。若い女性たちは「性奴隷」として売買され、性暴力に遭いながら今も転売されている。ムラドさんもそのひとりだった。

 イスラム教には、女性は人間として尊重しなければならないという掟があるが、ISは「ヤジディの女性は人間ではないので、レイプしても罪にはならない」と勝手に解釈している。

 ムラドさんは脱出に成功し、国連親善大使に就任したが、ISに今も監禁され、性暴力にさらされている女の子たちのことが頭から離れない。笑顔を見せることはまれだ。「私がいちばん幸せだったのは、世界のリーダーたちに話をしている今日ではありません。母の畑で野菜を育て、山へピクニックに行った日々が、いちばん幸せなときでした」

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AERA編集部
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