そして最後に、死刑は残された遺族のためにあるのだと彼らは言う。この声がいちばん多いかもしれない。でも、それならば、遺族がいない(つまり天涯孤独な)人が殺された場合、悲しむ遺族はいないのだから罰が軽くなってよいのだろうか。そうであれば命の価値が、家族や友人が多いか少ないかで変わることになる。やはりそれは近代司法の原則に反している。いや近代司法を持ち出すまでもなく、それはおかしいとあなたも思うはずだ。

 処刑されたオウムの死刑囚のうち6人に、僕は面会して手紙の交換を続けていた。誠実で優しくて穏やかな人たちだった。でも彼らが多くの人を殺害する行為に加担したことも確かだ。だから悩む。面会しながら混乱する。

 1カ月以内に13人の死刑が執行されたことで、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは7月、「報復で彼らの命を奪っても、真相解明にはつながらないし、日本社会が安全になるわけでもない」という声明を出した。ヨーロッパ連合(EU)の加盟国なども非難する声明を出している。

 僕は死刑を廃止すべきと思っている。でも日本の多くの人は死刑に賛成している。その理由のひとつは死刑を知らないから。死刑という言葉は知っていても、誰も直視しないから。

 だから最後にお願い。知ろう。見つめよう。この制度を。そして本気で考えよう。(解説/作家、映画監督・森達也)

【キーワード:オウム真理教】
 死刑囚だった松本智津夫氏が「麻原彰晃」と名乗り、1980年代に始めた宗教。松本氏は空中に浮かぶ「超能力」があるなどとアピールし、若者を中心に信者を集めた。89年に東京から宗教法人と認められた一方で、この年、オウム真理教の被害対策に関わっていた坂本弁護士の一家を殺害した。

 95年3月に東京都内の地下鉄に毒ガスの「サリン」をまき、13人が亡くなり、6千人以上が負傷した。一連の事件後、松本氏を始め、多くの幹部・信徒らが逮捕された。死刑となった13人を含め、190人が有罪判決を受けた。教団はその後、分裂した。

※月刊ジュニアエラ 2018年11月号より

ジュニアエラ 2018年 11 月号 [雑誌]

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森達也
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