恐竜はどのようにして巣を作り、卵を温めていたのだろう? 巣の化石を手掛かりにしてその謎を解こうと、日本の研究者らが挑んでいる。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された記事を紹介する。
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恐竜は、爬虫類の中でも「主竜類」というグループに分類される。今生きている動物では、ワニや鳥が主竜類の仲間だ。「鳥も?」と思うかもしれないが、鳥類は恐竜から進化したことがわかっている。
恐竜が鳥に近い動物だとすると、鳥のように巣を作って、硬い殻のある卵を産み、体温で卵を温め、かえしていたのだろうか?
そんな疑問の答えを見つけ出そうと、名古屋大学博物館の田中康平さんは、恐竜の巣や卵の化石を研究してきた。巣の化石といっても、卵をどのように温めていたかを確かめられるような保存状態の良い化石は少ない。田中さんは日本やカナダの共同研究者と、世界各地で見つかっている192の巣の化石標本から、巣の材料などを詳しく調べた。
さらに、今生きているワニや鳥も参考にした。ワニは木の枝や草などの植物や泥・砂で水辺に巣を作り、太陽熱や植物が発酵(※1)するときに出る熱を利用して卵をかえす。鳥はふつう親が卵を抱き体温で温めて卵をかえすが、なかにはツカツクリという変わり者の鳥もいる。ツカツクリは卵を抱かず、土や落ち葉などで塚のような盛り上がった巣を作り、そこに卵を産んで発酵熱を利用して卵をかえすことがある。
田中さんらは、こうした研究の結果、恐竜たちの巣作りや卵を温める方法には、大きく分けて三つのタイプがあるらしいことを突き止めた。
(※1)発酵=微生物が有機物(植物や動物の体を作っているもの)を分解するはたらき。このとき、熱が出る。
■卵の温め方の違いが恐竜の分布にも影響?
田中さんらが推定した三つのタイプは次の通りだ。
(1)太陽熱や地熱を利用して温める 巨体で首の長い竜脚形類の巣や卵は、主に砂が固まってできる砂岩の中から見つかる。このことから、砂の中に卵を産み、太陽熱や地熱を利用して卵を温めたと考えられる。
(2)植物が発酵するときの熱で温める ハドロサウルス類(※2)や一部の竜脚形類は、有機物を多く含み、泥が固まってできる泥岩の中で見つかる。このことから、落ち葉などの植物と泥でできた巣に卵を産み、発酵熱を利用して卵を温めたと考えられる。
(3)親が体温で温める 鳥に近い獣脚類のオヴィラプトロサウルス類やトロオドン科の巣の化石は、泥岩と砂岩からほぼ半々の割合で見つかる。これらは、多くの鳥のように卵を体温で温めたので、地面が泥か砂かにこだわりなく、様々な場所に巣を作っていたと考えられる。
恐竜の化石は、アラスカやシベリアなどの北極圏からも見つかっている。恐竜のいた中生代は今より気温が高かったとはいえ、北極圏はかなりの寒さだったはずだ。田中さんは今回の研究で、そんな寒冷地で卵をかえせる方法がわかってきたと語る。
「親が卵を温めたり、植物の発酵熱や地熱を利用したりすることで、寒冷地でも卵をかえせたかもしれません。実際に、こうしたタイプの恐竜の卵の化石は、北極圏でも見つかっています。一方、太陽熱を利用して卵を温めたと考えられるタイプの恐竜は、暖かい地域からしか卵の化石が見つかっていません。つまり、卵の温め方の違いが、恐竜の分布に影響を与えたとも考えられるのです。今後、北極圏から巣や卵の化石がいくつも見つかれば、こうした考えが確かめられ、寒冷地に暮らす恐竜の姿を描き出すことができるでしょう」
(※2)ハドロサウルス類=カモノハシのような形の口を持った植物食恐竜。北海道で全身骨格化石が見つかり話題となった「むかわ竜」もこの仲間。
(文/上浪春海)
※月刊ジュニアエラ 2018年7月号より