最初から「なぜ受験をするのか」を明確にわかっている親はほとんどいません。多くの人がぼんやりとしたところからスタートしています。受験勉強のなかで「なぜこんなにも苦しいのだろう」と思ったときに初めて、「なぜ」を考えざるを得なくなる。でも、それでいいのだと思います。困難に直面して初めて、自分の内側を見つめ、なんとか解消しようとするなかで大切にしたい“軸”ができてくる。そうやって、親も人間として成長していく。
外に答えを求めてしまう要因の一つとして、科学的根拠を求めがちな世の中の風潮があるように思います。まるで子育てに正解があるかのようにも思われていますが、本来、子育ての目的は子どもの人生を応援すること。人生に正解がないのと同じように、教育にも、中学受験にも正解はないわけです。
自分の価値観というものは、つくろうと思ってつくれるわけではない。失敗し、挫折を繰り返すなかで次第に「こんなふうにしていくのが、一番心地がいいんだ」とわかるようになる。そうしたものが自分にとって大切な“軸”になっていくのだと思います。
■笑顔で終わる受験はどういうものか考える
中学受験において、どうすれば自分が安定するのかを探していくうえで一つのコンパスとなるのは、「受験が終わったときにどういう状態であれば、自分たち親子は笑顔でいられるのか」を想像してみることです。
仮に第1志望合格でなかったとしても、どういう状態であれば、笑顔で中学受験を終えられるのかをイメージしてみる。『勇者たちの中学受験』では、氷食症になってしまった女の子について書きました。おおらかな子で、お母さんも決して教育ママではないけれど、それでも日に日に追い詰められていった。そうした苦しみのなかでお母さんは何を“軸”にするかを考えたときに、「元気で終わる」ことだけを目標にしよう、と決めたそうです。自分たちにとって優先順位が高いのは、必ずしも第1志望合格ではなく「元気に、笑顔で終わること」。欲を出すことで笑顔が危うくなるのだとしたら、欲は潔く捨てることも必要です。
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