最初のうちは、自分の好きな宇宙や食虫植物などの話をひたすら相手に披露していた。そのたびに「英語が上手だね」と褒めてもらえ、もっと英語で話しかけたいと思った。観光地にも足を運び、交流を増やした。
しかし保育園の年長のころ、京子さんはこうした交流に一抹の不安を覚えた。
「せっかく日本まで来てくれた観光客を足止めして、子どもが自分の好きなことを一方的に話すのは迷惑にならないだろうか? と思いました」(京子さん)
そこで2人で、観光客に喜んでもらうにはどうしたらいいかを考えた。その答えが観光ガイドだった。手始めに、岡山後楽園のパンフレットと観光客向けの英語音声ガイドを借り、庭園の歴史を少しずつ勉強した。またボランティアでガイド活動をしている人に、実際にガイドの仕方を教えてもらった。一つ新しい知識を得るたびに観光客に話しかけてガイドを実践し、説明のスキルを高めていった。3年前からは倉敷の歴史の勉強も始め、腕を磨いた。
ガイドはただ決まった原稿を暗唱しているわけではない。例えば4人の観光客が「バスが来るから5分だけね」と言えば、内容をコンパクトにまとめて話す。美観地区の今橋のたもとにいるときは、今橋の成り立ちを話す。大原美術館の前を通る人には、入り口にあるロダンの像の説明をする。相手に時間がありそうなら、美術館で展示されている絵の解説まで。「Do you have any spare time?」の答えと状況によって、話す量や内容、速さを変えているのだ。
「もっとうまく説明できればな、と思ったことはたくさんあります」と拓土くん。「でも毎回、お母さんと一緒にやり方を改良していっています」
「私の子がこんなに英語を話しているなんて、今でも信じられません」と京子さんは言う。自身はまったく英語が話せない。しかし、だからこそ、のびのびと育てられたのではないかと振り返る。
「自分が英語をわからないがゆえに、拓土の英語を本気で褒めることができました。もし多少英語がわかっていたら、細かい間違いもいちいち指摘して、やる気をなくさせてしまっていたかもしれません」(京子さん)
そんな拓土くんも、普通の小学生と同じく、普段は漫画を読むのが好きだという。しかし一つだけ違うのが、漫画もほとんど英語で読んでいるという点だ。「『ONE PIECE(ワンピース)』も『はだしのゲン』も英語です。最近、『進撃の巨人』も英語で読み始めました」と拓土くん。活字の本も英語で読むほうが多いというぐらい、英語に親しんでいる。
将来の夢は作家だったが、最近になって漫画の原作者に変わったそうだ。
「『キングダム』のような面白い話をつくりたいです」(拓土くん)
(文/白石圭)
※「AERA English 特別号 英語に強くなる小学校選び2020」から抜粋