兄ジャン=ピエール・ダルデンヌ(左)&弟リュック・ダルデンヌ監督(右)と作家の天童荒太さん。二人の描く世界は、『永遠の仔』『悼む人』『巡礼の家』などを手がけてきた天童さんに共鳴する(撮影/写真映像部・松永卓也)
兄ジャン=ピエール・ダルデンヌ(左)&弟リュック・ダルデンヌ監督(右)と作家の天童荒太さん。二人の描く世界は、『永遠の仔』『悼む人』『巡礼の家』などを手がけてきた天童さんに共鳴する(撮影/写真映像部・松永卓也)

 社会の片隅にいる人々にまなざしを向け、国際的に評価されているダルデンヌ兄弟監督。彼らが撮る映画に強いシンパシーを持つ作家・天童荒太さんとの鼎談が実現した。AERA 2023年4月3日号より紹介する。

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天童:「イゴールの約束」(1996年)からのお二人のファンで、日本で公開されている作品はすべて拝見しています。常に社会的に困難な状況に置かれた人たちに焦点を当て、リアルに公平に、温かい眼差しを持って描かれていることにシンパシーとリスペクトを感じています。私の著作『悼む人』のフランス語版をプレゼントさせてください。

ジャン=ピエール(以下、JP):おお! 亡くなった人の場所にお参りをする人の話ですよね。内容は存じ上げています。とてもうれしいです。

天童:3月31日公開の新作「トリとロキタ」はベルギーで暮らす難民の少年トリと少女ロキタの物語です。サスペンスの要素もあり、これまでのなかでもエンターテインメント性が強いと感じました。

リュック(以下、L):トリとロキタのベルギーでの亡命者としての生活には常に死の危険が迫っています。そのなかで二人の友情がどこまで続くのか、最後まで貫けるのかを描きたかったのです。それゆえにサスペンス性のある映画になっています。二人の美しく光のような友情は決して裏切られることはありません。

天童:日本は距離的な問題もあり、難民問題に対してヨーロッパほどの切迫感やリアリティーを持つ人が少ないのです。

■自分とは違う人になる

JP:ヨーロッパで難民問題は政治的な問題となっています。各国で国境封鎖を掲げている極右政党が勢力を伸ばしています。イタリアの第1党も極右政党ですし、フランスでも極右の政治家マリーヌ・ルペンの政党が力を持ってきています。残念なことにほかの政党にも悪い影響を及ぼし、どの政党も選挙で票を得るために「国境をもっと高いものにする」などの政策をとり始めています。

天童:実は日本も隠されているだけで同じ問題を抱えていると私は考えています。日本人の難民に対する無関心さや、受け入れ体制をとらない姿勢は、長年にわたって日本を支配し権力を持ってきた政党が保守的な考えを持っているからです。その政党を支援する団体もしかりです。国民は無意識のうちにその影響を受け、自分たちの知らない人が外から入ってくることに恐怖に近いものを感じています。

L:私は芸術を作る人間には一種の責任があると思っています。小説や映画は、その芸術を通して、自分とは違う人になることができるものです。小説を読んでいる間や映画を見ている間、私たちは自分とは違う人になれる。白人は黒人になれるし、男性は女性になれる。特にフィクションは人の内面に強く訴えかけることができる手段です。私たちの映画を見るあいだ、観客のみなさんにこの黒人の子どもたちになってほしい。彼らの気持ちになって自分たちで何か考えてほしいのです。そこに希望があると私は思っています。

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