核兵器禁止条約は批准した国だけが法的に拘束され、未加盟の国への強制力はない。現時点では、いずれの核保有国も、核兵器禁止条約に署名も批准もしていない。日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国といった安全保障政策を米国の「核の傘」に依存している国も、同様だ。

 それでも、国連加盟国の約4分の1にあたる50カ国が率先して核兵器禁止条約に批准したのは、「核兵器は絶対悪」というルールを国際社会に広げることで、核保有国が核兵器を使いづらくなり、核軍縮が早まると期待しているからだ。実際、核兵器禁止条約が採択された2017年以降、大手銀行が核兵器を製造している企業への融資をやめるなどの動きも出てきた。

 国連での核兵器禁止条約の採択を後押しした国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」がモデルにするのは、先に禁止条約が発効している対人地雷やクラスター弾といった非人道兵器だ。1999年に発効した対人地雷禁止条約は、現在は世界の160超の国が加盟する。アメリカはいまも条約に入っていないが、対人地雷の対策費に世界最大のお金を出し、備蓄する地雷の数も減らした。目加田説子・中央大学教授は「核兵器禁止条約ができたことで、核保有国は自国の考えだけで行動しにくくなり、核に関する情報公開にも応じざるを得なくなるだろう」とみる。

●核廃絶を求める世論が世界で高まるかがポイント

 日本政府は、国際社会では「唯一の戦争被爆国」とアピールしてきたが、今後も核兵器禁止条約に参加しない考えだ。米国の「核の傘」に依存する安全保障政策に反すると考えているからだ。加藤勝信官房長官は発効が決まった直後の10月下旬の記者会見で、「我が国のアプローチとは異なる」と否定的な見方を示した。

 日本周辺では中国が核兵器の近代化を進め、北朝鮮の核・ミサイル開発も止まっていない。いますぐ、米国の「核の傘」から抜け出すのは難しい現実がある。ただ、このままでは核軍縮での日本の影響力が低下しかねないと、与党の自民党や公明党内からは「せめて締約国が開く会議にオブザーバーで参加すべきだ」との声も上がっている。

NEXT次の目標は「100カ国・地域の批准」
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