●“ライバル”イタリアに勝った理由は磁気逆転の記録の詳しさ

 ある地層がGSSPとして認められるためには、いくつかの条件がある。今回、その一つとして重要視されたのは、「地磁気の逆転(※3)」の証拠が刻まれていることだ。地球は、北極をS極、南極をN極とする巨大な磁石と考えられる。方位磁針のN極が北を指すのはS極のある北極に針が引かれるから、S極が南を指すのはN極のある南極に針が引かれるからだ。しかし、驚くべきことに、地球のN極とS極は数十万年ごとに何度も逆転している。現在のように北極がS極、南極がN極のときもあれば、北極がN極、南極がS極のときもあったのだ。直近の地磁気の逆転は77万年前。更新世の中期と前期(カラブリアン)の境目のGSSPは、この逆転を示す地層と決められた。

 千葉セクションでは、77万年前、噴火した古期御嶽火山(※4)の火山灰が海中に堆積した。その目印のすぐ上から、地磁気の逆転の様子が詳しく記録されている。通常、陸から運ばれてきた泥が海底に積もるとき、含まれている砂鉄などが、棒磁石の上にまかれたときのように地球のN極・S極の向きにそろい、その時代の地磁気の様子を物語る証拠となる。千葉セクションの場合、下(古い時代)から上(新しい時代)に見ていくと、次第に地磁気が逆転していった様子がよくわかるのだ。

 千葉セクションがGSSPとして優れていた点は、ほかにもある。調査チームの中心となった茨城大学の岡田誠教授は言う。

「GSSPとして認められるには、当時の気候の変化を示すプランクトンや、陸から飛んできた花粉の化石などもたくさん含まれている必要があります。更新世の前期から中期にかけては、気候の変動が起きました。海水の温度が変わると、そこにすむプランクトンの種類も変わります。陸の気温が変化すると生える木の種類も変わって、飛んでくる花粉の種類も変化します。千葉セクションにはこうしたプランクトンや花粉の化石もたくさん残っていました」

 今回、GSSPに名乗りを上げたのは、千葉セクションだけではない。イタリアの二つの候補地が有力なライバルだった。花粉の化石などは、イタリアの候補地にもたくさん残っていた。しかし、地磁気の逆転の証拠を記録している地層としては、千葉セクションのほうがライバルより圧倒的に勝っていた。だから、GSSPとして認められたのだと岡田教授は胸を張る。

※3 地磁気の逆転:地球のN極とS極は過去360万年の間に計15回、逆転したと考えられている。77万年前は今から見て最後の逆転が起こった時期。今のところ、なぜ逆転するのかはわかっていない。

※4 古期御嶽火山:現在の御嶽山(長野県・岐阜県境)の近くで、39万年前以前、活発に火山活動を行っていた火山の呼び名。

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