この写真は、昨年8月のアジア大会の陸上男子400メートルリレーで金メダルに輝いた、4人の日本代表選手たちだ。彼らほどの選手なら、子どものころから同学年の中では飛び抜けて足が速かったに違いないと思うかもしれない。しかし、4人の中学生時代の成績を見ると、全日本中学校陸上競技選手権大会の男子100メートルで決勝(ベスト8)に残った選手は一人もいない。地方大会で負けて全国大会に進めなかったり、同じ中学のなかでも1番ではなかったり。

【表1】日本代表選手の陸上競技実施率および競技レベル
【表1】日本代表選手の陸上競技実施率および競技レベル
【表2】陸上競技の全国大会出場および代表選手の生まれ月分布
【表2】陸上競技の全国大会出場および代表選手の生まれ月分布

 こうした傾向は4人に限ったことではない。陸上競技の日本代表選手のうち、中学生時代に全国大会で8位以内に入賞した選手は5人に1人しかいない(表1)。高校時代以降に伸びた“遅咲き型”が多いのだ。400mハードルで世界選手権7位の実績を持つ順天堂大学教授の山崎一彦さんは、その理由をこう語る。

「足の速さは、身長や体重など、体の成長に影響されます。成長の時期は人によって違いますから、小学生のころから抜群に速い“早熟型”の選手もいれば、高校生以降に記録を伸ばす“遅咲き型”の選手もいるのです」

■小中学校時代の競技成績から才能を決めつけてはいけない!

 体の成長と競技成績との関係は表2からも明らかだ。陸上競技の全国大会出場者を生まれ月別に見ると、小学生の大会では、4~6月生まれの割合が、発育が1年近く遅れる1~3月生まれの「早生まれ」に比べて圧倒的に多い。年齢が上がるにつれてこの傾向は弱まり、オリンピックや世界選手権の日本代表選手には、生まれ月による差はほとんどなくなる。

 ところが、スポーツ指導の現場では、こうした背景が十分に考慮されず、好記録を出した小学生だけが特別に、早くから専門的な指導を受ける。そこには二つの意味で問題が潜んでいると、山崎さんは指摘する。

「“遅咲き型”の秘められた才能が気づかれず、埋もれてしまいかねません。逆に“早熟型”の中には、早く成長が止まり、期待されたほど記録が伸びず、悩む者もいます」

 こうした問題は陸上競技よりもむしろサッカーや野球などで深刻だと山崎さんは指摘する。幼いころから秀でた運動能力を発揮した早熟型の選手が早くから抜擢されて指導を受け続ける一方、遅咲き型の選手はふるい落とされて競技から離れがちだ。競技を続けて後から才能が開花しても、陸上競技のように数字という客観的な評価基準がないため、気づかれずに埋もれてしまう可能性が高い。実際に、サッカーJリーグの選手は4~6月生まれが多く、1~3月生まれが少ない。

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AERA編集部
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