小学校で4月から道徳が教科になった。中学校で教科になるのは来年からだ。道徳の教科化で、どんな問題が起きうるのだろうか? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞編集委員・氏岡真弓さんの解説を紹介しよう。

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 教科になると、教科書を使うようになり、先生から「評価」されるようになる。

 今までも「道徳の時間」の授業は1年で35時間ほどあったが、教科書も成績もなかった。かつては「修身」という教科があり、授業で愛国心をかきたてて、国のために命を捧げるよう求め、若者を戦場に送った。そのことへの反省があったからだ。

 だが2011年、滋賀県大津市の中学生がいじめを苦に命を絶った事件を機に、大学教授や会社役員たちからなる政府の会議が、「子どもが命の尊さを知るように」と道徳の教科化を提言。それを受けて文部科学省(文科省)が決めた。

 これまでの「道徳」は、登場人物の気持ちを読み取るような授業が多かったが、文科省は「考え、議論する道徳」に変えようとしている。自分だったらどうするか考えたり、意見を話し合ったりする授業をしてほしいという。

 ただ教科となると、先生は好きな内容ばかり教えるわけにはいかない。文科省によって、「善悪の判断」「誠実」「国や郷土を愛する態度」など、教える内容が学年ごとに19~22項目決められているからだ。教科書はこれをすべて取り上げなければならない。さらに、この条件を満たしているか、教科書会社は文科省のチェック(検定)を受ける必要もある。昨年の小学校1年の検定では「伝統文化の尊重や郷土愛などに関する点が足りない」と意見がつき、「パン屋」を「和菓子屋」に直した例もあり、意味のある修正なのかと話題になった。

 国が学ぶ内容を決め、教科書もチェックする「二重の縛り」があるとして、「そのときの政権に都合のいい内容を学ばせることにならないか」という批判もある。

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氏岡真弓
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