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東浩紀「デモの敵は民衆 米国で進む民主主義の深刻な危機」

連載「eyes 東浩紀」

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8月12日に起きたデモとデモの衝突は、先進国が抱える困難を象徴している(※写真はイメージ)

8月12日に起きたデモとデモの衝突は、先進国が抱える困難を象徴している(※写真はイメージ)

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

*  *  *
 去る8月12日、米バージニア州シャーロッツビルでヘイトデモとカウンターデモの衝突が起きた。白人至上主義者が同市に集結、それに抗議するリベラル側市民も集結し、大規模な衝突となったのである。そのなかで青年が車でカウンター側に突入、1人の死者が出た。

 デモとデモが衝突し、死者まで出したこの事件は、いま先進諸国が抱える困難を象徴している。かつてデモは権力に抵抗するものだった。だからデモは民主主義の源泉とされた。しかしいまや新しいデモが台頭している。そこではデモの敵は権力ではない。民衆である。デモは同じ民衆を攻撃している。似た現象は、昨年の英国民投票や米大統領選、今年5月の仏大統領選でも確認された。

 この事態への対処はむずかしい。排外主義は国民を分断するものだが、それへの攻撃もまた分断を生み出すからだ。バージニア州知事は、事件直後に、米国に白人至上主義者の居場所はないと強い声明を出した。この声明はリベラルから絶賛を浴びたが、移民は出ていけと叫ぶ人々に対し、そんなおまえこそ出ていけと叫び返す行為にはやはり危険が伴う。実際にSNSではヘイトデモ参加者の実名晒(さら)しが始まり、誤認での脅迫事件も生じている。

 ヘイトとカウンター、どっちもどっちだと言いたいわけではない。トランプ米大統領は事件後、衝突は双方に責任があると発言し非難を浴びた。当然である。多様性と排外主義を同列に並べてはならない。寛容は非寛容よりも上だ。

 しかし、犯罪者がどの社会にもいるように、差別主義者や排外主義者もどの社会にも一定数存在する。SNSはそれを可視化しただけである。いま先進国はその意外な数に動揺しているが、ここでこそ法と理性が試される。私たちは犯罪者を許さないが、それでも私刑にかけたり追放したりはしない。同じように排外主義者を私刑にかけたり追放したりしてはならない。

 ヘイトスピーチやデモの厳格な定義と法的規制こそが、唯一の解決の道である。リベラルと排外主義者が直(じか)に暴力を伴って衝突する現状は、民主主義の解体につながりかねない深刻な危機を示している。

AERA 2017年9月4日号


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東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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