著書『世界史を変えた薬』を今月出すサイエンスライターの佐藤健太郎さん(45)は、これが中国人受賞者が増えていく「序章」とみる。03年からの10年間に出版された研究論文数では、中国が日本より4割も多い。

 こうして見ていくと、やはり悲観的にならざるを得ないが、ポジティブな材料もないわけではない。

 研究費では、90年代以降にさかんになった大学の民間企業との共同研究が、徐々に浸透してきた。この5年だけ見ても、件数にして約2割増えている。市場の変化が激しく、自ら研究することに二の足を踏みつつある企業側と、シーズはあるが研究費に乏しい大学。互いの思惑が一致して、産学連携がじわじわ進む。

 ノーベル賞そのものにも変の兆しがある、との指摘もある。科学ジャーナリストの尾関章さん(64)は、「ノーベル賞の間口が広がっている」と指摘する。

 昨年、日本人3人が受賞した物理学賞。受賞理由は「明るくエネルギー消費の少ない白色光源を可能にした高効率な青色LEDの発明」だった。青色LEDの発明によって、電力使用の少ないLEDを使った白色光源ができ、電源開発が遅れる途上国などに貢献できると期待されている。

 医学生理学賞の受賞が決まった北里大学特別栄誉教授の大村智さん(80)の功績も途上国の発展に寄与するものだ。尾関さんは言う。

「理系3賞の平和賞化が進みつつある」

 基礎研究に限らず、人類や地球環境に貢献する実用技術に対象が広がっているという指摘だ。応用の得意な日本人にとって、順風になり得る変化と言える。

AERA 2015年10月19日号より抜粋