Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorほか、クリエイティブツールで抜きんでているアドビ。近年はマーケティング分野でも企業やビジネスパーソンから注目されている
Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorほか、クリエイティブツールで抜きんでているアドビ。近年はマーケティング分野でも企業やビジネスパーソンから注目されている

ビジネスのDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が増すなかで、2012年にサブスクリプションサービスをいち早く取り入れ、DXに成功したアドビ。その体験を顧客とも共有していきたいと話すのは、アドビ株式会社CDOの西山正一さんだ。アドビが行ったDXについて聞いた。

■生き残りをかけた経営改革

 クリエイティブソフトウェアのリーディングカンパニー・アドビ。同社はサブスクリプションサービス「Adobe Creative Cloud」を主軸として成功させ、現在も成長し続けている。

 それ以前は、家電量販店などでクリエイティブツールをパッケージで販売する売り切り型だった。サブスクリプションサービスへと事業の大転換を図った背景を、西山さんは次のように振り返る。

「スマートフォンの台頭やWebブラウザの進化もあり、めまぐるしい速さで仕様変更が求められました。しかし、私たちの新製品販売には1年半くらいの間隔が必要だったので、到底追いつかない。そこで、お客さまに最新の機能を提供し、かつ利益につなげるために考えたのが、機能をリアルタイムでアップデートできるサブスクリプションサービスでした。まさに、生き残りをかけた経営改革だったのです」

アドビ株式会社 CDO(Chief Digital Officer) 西山正一さん2001年入社。Adobe Creative Cloudのマーケティングなどを担当後、17年、営業戦略部(現DX 推進本部)の立ち上げに携わる。22年9月から現職。DX製品をフル活用したeCommerce事業の推進に努める
アドビ株式会社 CDO(Chief Digital Officer) 西山正一さん
2001年入社。Adobe Creative Cloudのマーケティングなどを担当後、17年、営業戦略部(現DX 推進本部)の立ち上げに携わる。22年9月から現職。DX製品をフル活用したeCommerce事業の推進に努める

■ユーザーのニーズに合ったサービスを拡充

 導入当初、すべてのアドビ製品が収録された「マスターコレクション」は35万円程度だったのに対し、サブスクリプションサービスのAdobe Creative Cloudを購入すると、月額5千円で同じ機能が使えた。

 複数のアドビ製品を仕事などで使用するユーザーには喜ばれたが、特定の製品だけを使いたいユーザーからは、「毎月の利用料を払うのは割高に感じる」といった反応が返ってきたという。

「そこで単体プランも用意したほか、使える書体が自動で増えるAdobe Fontsなど、制作環境の付加価値を高める細かいサービスを拡充したのです」

■Adobe Creative Cloud の好調で2021年度は過去最高の売り上げに

 常にユーザーのニーズにきめ細かく対応しながら、サービスを提供し続けたアドビ。やがて、誰もがスマートフォン一台でイラストや動画などを簡単につくれる時代となり、趣味として利用するユーザーが増えたことも追い風となった。

 結果、Adobe Creative Cloud の売上高は伸び続け、2021年度の通期連結決算(米アドビ発表)は、売上高157億9千万ドルと過去最高に達している。

■DDOMを導入し、マーケティングも変化

 アドビが行った事業転換は、マーケティングも大きく変化させた。

「売り切り型は、製品を購入いただくことがゴールだったのですが、サブスクリプションサービスでは、契約を更新していただくことが一番重要になります。そこで2016年に導入したのが、DDOM(Data Driven Operating Model)という仕組みです」

 まずは、カスタマージャーニーといわれるマーケティングの流れを、「Discover(Adobe Creative Cloud を知る)」「Try(体験版を使ってみる)」「Buy(契約する)」「Use(ツールを使う)」「Renew(契約を更新する)」という五つのステージに分けることから始めた。

GTMとは「営業戦略本部」のこと。マーケティングや営業、サポート、データアナリストなどのチームで構成される
GTMとは「営業戦略本部」のこと。マーケティングや営業、サポート、データアナリストなどのチームで構成される

 ステージごとにデータを可視化して、どこの時点で、売り上げが伸びたか、もしくは顧客が離脱したかといったことを把握し、次の対策を考えるというビジネスの進め方だ。

「カスタマージャーニーから得られる膨大なデータを本社で一括管理し、ひとつのダッシュボードに反映しました。ダッシュボードで、同じ数字を同じタイミングで社員全員が確認できることで、ビジネスの状況や課題の共有がスムーズになります。土日に収集されたデータを、週明け月曜の朝にはダッシュボードで確認でき、関係スタッフが議論し、夕方には取るべき対策が決定。翌火曜には行動に移すことができます。以前は1週間以上かかっていたプロセスが、たった1日で効率的に進められる、このスピード感がお客さまの満足度につながっているのです」

カスタマージャーニーの中で、顧客の利用状況や行動データを分析。次のフェーズへ誘導するために、顧客それぞれに適した働きかけをする
カスタマージャーニーの中で、顧客の利用状況や行動データを分析。次のフェーズへ誘導するために、顧客それぞれに適した働きかけをする

■DXとは単なるデジタル化ではない

「DXは書類をペーパーレスにするといった、アナログをデジタル化することではありません」と西山さんは言う。

「私が考えるDXは、経営改革です。アドビの場合は、お客さまに満足していただくために、ビジネスモデルをサブスクリプションサービスに変えました。満足度をデータで可視化して社員全員が共有し、対策を立てる。目的は、デジタルを活用して経営課題を解決し、大きく飛躍することであって、社内のシステムを単にデジタル化することとは違います」

■DXを始めるなら、まずデータを集めることから

 さらに、西山さんは次のように続ける。

「『DXに関心はあるが、どこから手をつけたらよいか分からない』という相談をよく受けます。そんなときは『手がけている仕事に関するデータを集めるだけでも十分ですよ』と答えています。売上高・集客率・顧客の反応などをデータで集計して可視化すると、『ホームページの色を変えたら、女性客が増えた』など、何がきっかけでどう変わったのかを把握できるようになります。その分析から、次のステップへ移行するアイデアが浮かぶのではないでしょうか」

「データから課題を発見する力」と「課題解決のアイデアを考え、形にする力」を兼ね備えたデジタル人材を重要とし、育成にも取り組むという
「データから課題を発見する力」と「課題解決のアイデアを考え、形にする力」を兼ね備えたデジタル人材を重要とし、育成にも取り組むという

 西山さんは、「DXの話をしてほしい」とさまざまな企業から声をかけられ、直接その企業に出向いて話をする機会が増えているという。

「アドビはクリエイティブツールを提供するだけでなく、お客さまのDXを支援する会社でもあります。自らDXを実践してきた経験を生かし、さまざまなアイデアやヒントをお伝えできるパートナー企業として、これからもお役に立てればと考えています」

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提供:アドビ