グローバル企業として250年の歴史を持つブリタニカは、教育機関向けにデジタル教材を制作・提供し、高く評価されてきました。今回同社は、経済産業省が主導する「未来の教室」プロジェクト「STEAMライブラリー」に、各研究機関と協働して先端の研究に基づいたコンテンツを提供しました。
コンテンツの企画・制作を行ったブリタニカ・ジャパン株式会社代表取締役社長の須藤みゆき氏、先端の研究テーマとコンテンツの元となる研究成果を提供した東京大学生産技術研究所教授で次世代育成オフィス(ONG)室長の大島まり氏、産業技術総合研究所の上級主任研究員・柴田崇徳氏に話を聞きました。
■文理融合型で横断的に学ぶSTEAM教育の重要性
まず、「STEAM(スティーム)教育」とは、 Science / Technology / Engineering / Arts / Mathematics の頭文字の組み合わせで、教科を横断しながら課題解決を行い、創造的な学びへとシフトさせていく教育の考え方です。
STEAM教育の必要性について、ブリタニカ・ジャパン株式会社代表取締役社長の須藤みゆき氏は、「社会が多様化し変化のスピードも速くなっていることから、子どもたちはより素早く変化に対応したり、自らイノベーションを起こしたりすることが必要になります。そういった力をつけていくには、文理融合型で横断的に学んでいくSTEAM教育のプロセスはとても有効で、子どもたちが自ら課題を発見し、解決のためのアイデアを様々な角度から導き出す力をつける教育のメソッドとして重要になってきます」と語ります。
そして、ブリタニカ・ジャパンが企業活動の根底に持ち続けている「子どもたちの『知りたい』を育てたい」という考えが、「『知る』と『創る』が循環する、文系・理系学問を融合させた分野を超える学びを実現させたい」という経済産業省の思いとリンクして、「未来の教室」STEAMライブラリーにコンテンツ提供を行うことになったのです。
経済産業省がブリタニカに期待したのは、グローバル企業が産官学連携を行って、先端研究と教育を融合させた新しいイノベーティブなSTEAM教材を生み出してもらうことでした。また、すべてのコンテンツを日本語と英語で制作することによって、子どもたちが先端の研究をベースにした学びを日本語と英語両側から体験できる機会を提供することもブリタニカへの期待の一つでした。
「当社なら、強みである海外の教育的知見を組み合わせて、新しくて子どもたちがワクワクするようなコンテンツを届けられるのではないかと考えました。一つの例としては、すべてのコンテンツを大きな問いから始まる構成にしたことです。知識の積み上げから入っていくのではなく、学ぶ前に問いから入っていくと、子どもたちは自分の生活やこれまでの学びの蓄積を組み合わせた仮説をベースに答えを出したり、ディスカッションする中で答えを出したりするなど、制限のある中でイマジネーションやクリエーティビティーを駆使してアイデアを形にします。その後、同じテーマの中で知識を積み上げ、最初の段階で立てた仮説を検証し、より具体的な解決策をチームで協議しながら導き出していきます。コンテンツに含まれる動画や様々な事例は子どもたちを単に正解へ導くのではなく、独自の解決策を見いだすサポートをしてくれます」(須藤氏)
■課題は、先端の研究を中高生の教材に落とし込むこと
東京大学生産技術研究所次世代育成オフィス(ONG)では、研究成果を教育に用いることができるのではないかと考え、早い時期からSTEAM教育に研究を生かすことに取り組んでいました。「科学技術と社会をつなげるためには、これまでも産官学の観点で取り組んできましたし、経済産業省の『未来の教室』には有識者として参加し、今回はコンテンツの提供も行うことになりました」と、同オフィスの室長・大島まり氏が経緯を語ってくれました。
東京大学生産技術研究所次世代育成オフィス(ONG)がブリタニカと協働して制作したコンテンツは、「モビリティ」「スマートハウス」「バイオハイブリッド」の3テーマ。「モビリティ」は、ボートの設計、鉄道、自動運転などについて。「スマートハウス」は、建築や建築材料の先生に加わってもらい、よりよい生活と未来を築く住まいについて考えます。「バイオハイブリッド」は、身体と工学、感覚の工学、脳の工学、診断の工学などについて学ぶ先端のコンテンツで、大島氏も研究成果の情報提供を行いました。
「いちばんの課題は、先端の研究内容を中高生にわかりやすい教材に落とし込んでいく作業でした。ブリタニカさんは、そのあたりの知見や経験を持っていて、協働でコンテンツ制作を行ったことは大きな利点となりました。専門用語が正しく使われているかをチェックしたり、簡略化したことで少しずれた表現を修正したりするなど、根気が必要な作業を経て、今回のコンテンツが完成しました」(大島氏)
■テクノロジーとアートが融合した介護用ロボットのコンテンツ制作
経済産業省管轄の研究機関である産業技術総合研究所も、ブリタニカと協働してコンテンツ制作を行いました。同研究所の上級主任研究員・柴田崇徳氏は、「産業技術総合研究所には、『新しい産業をつくる』という役割があるため、STEAMライブラリーのような産官学が連携してつくるテーマにはフィットしているのではないかと思います」と語ります。
同研究所は、五つのテーマでコンテンツ制作に携わりました。「介護用ロボット」「長寿命Oリング」「トンボ」「高耐久の偏光材」「活性汚泥の微生物」です。「私は、アニマルセラピーを参考に、介護用のアザラシ型ロボット・パロを開発しているので、『介護用ロボット』のテーマに研究成果を提供しました。パロを研究開発する段階では工学やテクノロジーが必要ですし、応用段階になってくると医療や福祉にも関わってきます。また、人にどのように役立つかを測定するときには、そのセラピー効果を数学的に示す必要があります。もう一つ、パロは人から受け入れられてはじめてセラピー効果が発揮できるので、見た目のかわいらしさ、触り心地、生き物らしい動きなどのアートの要素も重要です。そのような多岐にわたる研究成果を教育のプロであるブリタニカさんに提供して、子どもたちにわかりやすい形に編集してもらいました。STEAMライブラリーのコンテンツを学ぶことで、中高生が勉強している基礎的教科が、将来どのように役に立つのかがわかれば、今の勉強をがんばるモチベーションになりますし、コンテンツの中から自分が好きなことを見いだして突き詰めて考える経験をすることが、将来専門家になっていくきっかけになればいいなと思います」(柴田氏)
■各コンテンツのストーリーは魅力的でワクワクするものばかり
ブリタニカが「未来の教室」STEAMライブラリーに提供するコンテンツは、先述のほか、「ベジミート」「アリの集団」「地図を収益化する」などの18テーマ×5レッスンずつ×2言語で、全部で180レッスンあります。STEAM教育は、文理融合型の学びで、生活回りのことをキャリア教育やビジネスアイデアにつなげて考える視点も取り入れています。
たとえば、「ベジミート(植物肉)」は、
レッスン1:なぜ植物肉がここまで普及したのか
レッスン2:植物肉の生産にはどのような植物性食品が使用されるか
レッスン3:市場に供給される植物肉製品の選択肢は、テクノロジーによってどの程度広がってきたか
レッスン4:ビジネスのアイデアを練りながら、植物肉を提供するレストランを開業するにあたり、検討すべき主な課題は何かを考えよう
レッスン5:植物肉を提供するレストランの主なセールスポイントは何か
の五つのレッスンで構成されます。
「大きな問いからテーマに入っていき、動画を見てもっと知る、自分で調べる、植物肉のよさを伝える(表現)、未来の食べ物を考えるなどに派生して、考えを深めていきます。社会、理科、総合など、どの教科で使ってもらってもいいですし、英語の教材としても使えます」(須藤氏)
基本的には、学校や自治体単位で使ってもらうことを想定していますが、コンテンツ自体は経済産業省のサイトで無償提供されているので、登録すれば誰でもアクセスして自由に利用することができます。教員用だけでなく、生徒用のガイダンスも充実しているため、好きなテーマを選んで生徒個人で取り組むことも可能です。
「18テーマすべてが子どもたちに身近に感じてもらえるちょっと先の未来のことを取り上げています。子どもたちがこのストーリーに魅力を感じてワクワクしてくれると信じているので、まず一つのテーマを掘り下げていって、楽しみながら新しい先端教育を体験してほしいと思います」(須藤氏)
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提供:ブリタニカ・ジャパン