堂々とうそをついたり、堂々と疑惑を否定したりすれば、説明をしなくてもなかったことになる。そんな空気が当たり前になってしまった。そういえば巨額の賄賂を受け取ったとされる甘利明経済再生相(当時、事件は不起訴処分)とかもいましたよね。いろいろありすぎて、忘れていることも多いです。


 
 さて、そんな安倍さんともついにさよならできるわけなのだけれど、辞任のニュースを聞いてもあまり気が晴れない。多くの人が指摘するように、病気を理由にさまざまな疑惑に対する説明責任を果たさずに「逃げた」ように見えるから、というのもある。せめて森友文書改ざんに関与して自殺した財務省職員の赤木俊夫さんの妻の前に立つ姿勢をみせるべきでは。真実を知りたい、という必死な闘いをしている人を前に、こんな恥ずかしい「逃げ方」はあるだろうか。

 しかし、何より気分が重いのは、辞任表明後のニュースがなぜか「なんだかんだ安倍さん頑張った」みたいな優しい姿勢が多いことかもしれない。案の定、共同通信社の世論調査では支持率がいきなり20ポイント以上あがり、56.9%になった。日本人は悪いことも何もかも水に流しすぎる。水が豊富な国とはいえ、流しちゃいけない悪もあるでしょう。ちなみに韓国には「水に流す」という言葉はないそうです。忘れず、記憶し、変えていく。そんな国に対して「早く忘れろ!」と言い続けてきたのが安倍政権がつくった空気だ。さっさと忘れ、水に流し、なかったことにし続ける。そんな国だからこそ安倍政権は8年間、やりたい放題できたのだろう。

 変わらなければいけないのは、私たちの方なのかもしれない。私も次の10年はもっと優しく明るい社会に生きたい。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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