ミャンマーで発掘された約9900万年前の白亜紀の琥珀(こはく)の中から、羽毛に覆われた小型恐竜の尾が見つかった。中国やカナダの研究チームがアメリカの科学誌に論文を発表した。これまではわからなかった恐竜の羽毛の立体的な形がわかり、鳥に進化したとされる恐竜の、真の姿に迫る重要な手がかりになる。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』の解説を紹介する。

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 その琥珀は2015年の夏、中国地質大学のシン・リーター博士がミャンマー北部の琥珀市場で見つけた。ニワトリの卵ほどの大きさの透き通った黄金色のかたまりの中に、小枝のような組織や、アリのような昆虫が閉じ込められていた。

 ミャンマー北部は世界的な琥珀の産地として知られ、シン博士は、調査でたびたびミャンマーの琥珀市場を訪れていた。「奇妙な植物が入った琥珀がある」。ある夏の日、顔なじみの男性から呼び止められた#試mは、差し出された琥珀を見て驚いた。「これは植物ではなく、恐竜の尾かもしれない」。拡大鏡でよく見ると、恐竜の尾に似た特徴が見えたという。

■琥珀から恐竜の体の一部が見つかったのは世界初

 シン博士は、その場で琥珀を買い取り、ミャンマーの法律に従い手続きを取ったうえで、中国に持ち帰った。琥珀に詳しいカナダのライアン・マッケラー博士たちと協力して、人間ドックの検査にも使われるCTスキャン(コンピューター断層撮影法)で琥珀を壊さずに内部を撮影するなどして調べた。

 その結果、枝のように見えたのは長さ約4センチの尾の一部で、八つの小さな骨が残っていた。骨と骨があまりくっついておらず、鳥に進化したとされる前の原始的な特徴が残っていたことなどから、草食の小型羽毛恐竜コエルロサウルスのなかまと判断した。埋まっていた地層の成分から、約9900万年前にできたことも突き止めた。琥珀から恐竜の体の一部が見つかったのは世界初という。

■羽毛は体を温め敵から身を守るために進化

 昔のSF映画「ジュラシック・パーク」は、恐竜の血を吸った蚊が琥珀に閉じ込められ、そこから遺伝情報(DNA)を読み解いて、恐竜を現代によみがえらせるストーリーだった。ただ、映画のようにはうまくいきそうにない。シン博士によると、琥珀の中のDNAはせいぜい数千年前のものしか解読できず、恐竜の尾は古すぎるという。

 しかし、DNAは解読できなくても、さまざまなことがわかった。尾の持ち主はスズメくらいの大きさだったとみられるが、大型の肉食恐竜ティラノサウルスに近いなかまだった。かぎ爪のある短い前脚や太い2本の後ろ脚で立つ姿がよく似ている。現代の鳥は、コエルロサウルスのような小型羽毛恐竜から進化していったと考えられている。

 これまでに見つかった羽毛恐竜の化石は、恐竜が岩に挟まれて、羽毛の形が押し花のように残ったものしかなかった。一方、今回見つかった琥珀の羽毛は、細かな形が立体的に残っていて、生え方やつくりを分析することができた。恐竜の羽毛は体が冷えるのを防いだり、外敵に見つかりにくくしたりする目的で進化し、その後で飛ぶ目的にも使われるようになったらしいことも見えてきたという。琥珀の羽毛や尾を鳥のものと比べれば、進化の過程がさらに詳しくわかるかもしれない。(朝日新聞アメリカ総局・小林哲)

【琥珀はタイムカプセル】
琥珀は、植物の樹液が地中で長い年月をかけて固まったもの。中に昆虫や植物などを包み込んだものも、発見されている。一般的な化石に比べ、琥珀は立体的な形をとどめていることが多く、生物の進化や大昔の地球の様子などを伝える、貴重なタイムカプセルといえる。

※月刊ジュニアエラ 2017年3月号より

ジュニアエラ 2017年 03 月号 [雑誌]

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小林哲
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