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台湾出身のデザイナー林唯哲(リン・ウェイチョー)さんは東京藝術大学大学院を修了後、ブランディングデザインや特殊印刷の仕事で日台を行き来し、台湾サイドから日本への理解や交流を推進する役割を果たしている一人です。両者の異なる民族性や仕事への向き合い方を軽やかに融合することで生まれる、日本人にも台湾人にもない思考やメソッドがとてもユニーク。今後の活躍にさらなる期待が高まります。

“間”にいるからわかること。デザインで見つめる台湾と日本 林唯哲さん/グラフィックデザイナー


デザインの考え方や精神を
日本で学んだ

――日本の東京藝大に進学しようと思ったきっかけは何だったのでしょう?

台湾の大学でデザインを勉強し始めた時から、深澤直人さん、吉岡徳仁さん、佐藤オオキさん、柴田文江さんなど、日本のデザイナーをずっと追ってきました。学生時代から展示や作品を見るため日本に何度も訪れていて、いつか日本でデザインを勉強したいと思い、藝大に行くことをずっと目標にしていました。

――その頃、台湾のグラフィックデザインはどういう状況でしたか?

すごく遅れていたと思います。台湾のグラフィックデザインの第一人者のアーロン・ニエさんが2000年代中頃から活躍していましたが、当時は本やCDジャケットや展示のデザインがメインで、商業的なグラフィックデザインが台頭してきたのは、2014年のひまわり学生運動の影響が大きかったと思います。その運動のためのポスターがネット配信でたくさんシェアされて、グラフィックデザインの効果に多くの人が気づきました。そこから大きく状況が変わったと思います。

――藝大大学院修了後に2年間あまり在籍したGKデザイングループでは何を学ばれましたか? 

その2年間は永遠に忘れません。私のデザイナーとしての理念の基礎が、この時に出来上がりました。創業者で会長だった榮久庵憲司(えくあん・けんじ)さんは、私の入社時は85歳で、もう一人では歩けない状態でしたが、「どうしたらデザインが世界の役に立てるのか」という自身の哲学を、新人一人ひとりにしっかり伝えてくれました。本質を探し出す、もっとも純粋なものを追求する、そういうデザインの精神性です。

ただ色や形をデザインするのではない。例えばあるスポーツカーに赤いマークがある。とても小さいマークで、車が走っていたら目に入るのは一瞬。じゃあそのデザインにはどういう効果があるのか? そういう研究もしました。今、私が台湾で行っているデザインの仕事は、GKで学んだデザインに対する考え方、精神、哲学が基本になっています。

取材当日、林さんは台北のオフィスにいたためインタビューはオンラインで行われた。

日本での活動から
台湾の仕事につながった

――独立されてからは日台両方での活動が始まりますね

友人と3人でデザイン会社を立ち上げ、日本と台湾の交流を試みて、東京タワーの近くに宿泊もできるギャラリー「NIBUNNO」をつくりました。最初は日本の企業からの仕事がメインでしたが、2年ほど経った頃に、台湾のメディアで私たちの活動が取り上げられるようになって、ライフスタイルメディアが主催する賞をいくつか受賞したんです。その後は台湾の企業からブランディングやデザインの依頼が増えて、2018年には台北と高雄にもオフィスをつくりました。今、台湾では「選選研」という名称で主にブランディングとデザイン、日本のマーケットに向けては「EP」という名称で特殊印刷のサービスを行っています。

日台のクリエーターをつなぐハブとして2017年に期間限定で東京・麻布十番に開業した、宿泊できるギャラリー「NIBUNNO」。2020年9月30日に閉館(画像提供:BXG株式会社)

――その特殊印刷は台湾でしかできない技術なんですか?

技術面では日本のほうが断然レベルが高いです。でも、前例がないからやらないということが多い。一方、台湾には同じ印刷機器があって、何でもやってみようっていう実験精神がある職人さんがいる。それで台湾の印刷所と組んで、ユニークな箔押しや特殊加工の印刷を提供するサービスを日本向けに始めたんです。日本のクリエーターにとっては表現の幅が広がるし、台湾の印刷技術のレベルを上げることも目的としています。

新宿御苑前にあるEPのオフィス。台湾で集めたさまざまな紙や特殊印刷加工のサンプルが置かれている。

日本と台湾、考え方は全然違う

――台湾と日本は仕事の進め方などでも異なる点が多いと思いますが、戸惑うことはありませんでしたか?

まさにとても違いますね。簡単に言うと、台湾はすごく自由。大雑把でルールは破壊するために存在する(笑)。日本は細部にわたって厳密でルールを完璧に守って進める。定規で表すとこんな感じです。

(林氏提供のキャプチャ画像)

ちょっと子供と大人みたいでもあります。でも子供には大人にないものが、大人には子供にないものがあって、その違いをよいことと捉えています。例えば何か問題があった時の違いを絵で表現するとこんな感じです。

(林氏提供のキャプチャ画像)

日本人は一つひとつのハードルに向き合って問題をクリアしていく。台湾は楽な道を見つけてそっちに行く。どちらが正しいとは言えませんが、双方のやり方があまりに違うので、仕事をしていく上では考え方の変換能力が必要です。私の場合、台湾では日本的な考え方に、日本では台湾的な考え方に変換しています。日本で起きた問題は台湾の考え方を、台湾で起きた問題は日本の考え方を使うと解決できることも多くて、台湾と日本の間にいるのは、とてもいいことなんです。

クリエーターと町工場の協業を促し、新しいものづくりを発信する拠点として2019年4月に大田区に開業した「梅森プラットフォーム」。選選研がサインシステムを担当(画像提供:BXG株式会社)

選選研がVI(ビジュアル・アイデンティティー)およびサインシステムの設計を担当した東京・築地のホテルTSUKI 東京(画像提供:BXG株式会社)

――この10年間で、台湾のグラフィックデザインの世界がすごく発展したという話がありましたが、林さんが見るこの10年の変化とは、どういうものですか?

台湾のデザイン環境は日本より10年、20年ぐらい遅れていて、10年前は最先端の日本を見ながら、いつか台湾もこういう状況になってほしいと考えていました。でも10年後の今、日本の考え方や概念は、それほど台湾に浸透していません。その状況を見て逆に今は、台湾は台湾らしく発展していけばいいと思うようになりました。

――かつて台湾は日本の背中を見ていたけど、別に日本を追いかける必要はなかったということですね。

そうですね。以前は台湾のクライアントに、日本のこういう考え方が絶対いいってすごく必死に訴えて、正直、自分は今もそう考えている部分もありますが、やっぱり無理があるんです。実際、日本と台湾では人口も市場の規模もまったく違う。だから無理をしないで、お互いの個性を尊重しながら、台湾は台湾のありのままの姿を生かすのがいいと思っています。

林さんが信頼する仕事仲間。EPをマネジメントするCEOの李章聖(リー・チャンション)さん(右)とプリンティングディレクターの許庭嫚(シュイ・ティンマン)さん。新宿御苑前のオフィスで。

――台湾はルールがなくてすごく自由だとおっしゃいましたが、だからこそ生まれるクリエイティブなものもあります。逆にそこは日本が見習うべき点かもしれません

でも日本の考え方は、やはりとてもいいと思います。例えば、日本は種をまいて水や肥料をあげて、じっくりと美しい花を育てる。最初から最後まで一貫性があって、きちんと根があるから長持ちするし強さもある。台湾の場合は、どこかから花を持ってきて、ちょこっと挿してそれで終わり。めっちゃ早い(笑)。台湾では常に早い結果が求められるからこうなってしまいますが、長い目で見れば、日本のやり方のほうがいいと思います。



(林氏提供のキャプチャ画像)

――二つの異なる文化をつなげていく上で、今後やってみたいことは?

台湾では展示会のディレクションも多く手がけていて、昨年はグッドデザイン賞とのコラボで、ロングライフデザインを紹介する展覧会を行いました。ナガオカケンメイさん、深澤直人さん、柴田文江さんを始め、日台のデザイナー10人のデザインに対する考え方を映像でも紹介しました。日本と台湾のデザイナーの交流はもっとやっていきたいですね。

日本のグッドデザイン賞とのコラボによる「LONG LIFE DESIGN展」。2021年8月から11月にかけて台湾設計館で開催された(画像提供:BXG株式会社)

――今後の日本と台湾の関係においては、どういうことを期待していますか?

私が藝大に入った頃はまだ少し壁を感じることがあったけど、3.11以降に急速に仲良くなって、ずっと関係は良くなり続けていますね。台湾も日本との関係をとても大事にしています。だから私自身は現状にすごく満足しています。あとプライベートなことになりますが、早く私に日本の永住権をいただけたら、もっとうれしいと思います(笑)。

日台の26人のグラフィックデザイナーが「希望」をテーマに作品を制作した「HOPE希望的形状展」。各地を巡回し2022年は高雄で開催。売り上げは慈善団体に寄付されている(画像提供:BXG株式会社)

林唯哲(リン・ウェイチョー)/グラフィックデザイナー

1987年台湾・高雄出身。2014 年東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻を修了。GKデザイングループのGK Dynamicsで2年半デザイナーとして仕事をした後に独立。2016年東京・東麻布にデザイン会社「BXG株式会社」を設立。自身のオフィスが入るビルを利用した泊まれるギャラリー「NIBUNNO」が2019年度グッドデザイン賞を受賞。台湾で「選選研」という名称のデザインオフィスとウェブサイトを⽴ち上げ、⽇本と台湾のクリエーティブ分野の交流やプロジェクトを企画しつつ、日本のクリエーターのための印刷マネジメントサービス「EP」も展開する。

文/サウザー美帆 撮影/大河内 禎

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