安倍内閣が打ち出した経済政策、いわゆる“アベノミクス”による株高・円安を受けて、長らく停滞していた個人消費が上向き始めている。日本百貨店協会が発表した2月の全国百貨店売上高は、前年同月比0.3%増(店舗数調整後)の約4317億円と2か月連続で前年プラスを達成。また、コンビニ大手のローソンではグループ社員の2013年度年収を3%アップすると発表したほか、大手の自動車や電機メーカーも春闘で満額回答を出す企業が相次いでいる。
こうした景気回復への動きが加速する一方で、消費に対してまだまだ厳しい目を向けているのが女性たちだ。もはや、節約志向が当たり前になった昨今、彼女たちの商品選別眼は年々キレを増しており、“安ければ売れる”時代は終わりを迎えようとしている。これに対して、商品やサービスを提供する企業側では、どうしたら女性の心をつかむアイテムを生み出せるのか、様々な角度から新たな糸口を探しているのが実状だ。
その中で、最近、多くの企業がチャレンジしているのが、商品の企画から開発までをすべて女性に託すという開発手法である。これまでも、女性の意見を取り入れて開発を行うケースは少なくなかったが、今、各社が取り組んでいるのは女性100%のチームによって商品開発を進めるというもの。まさに、「女子による女子のための女子アイテム」づくりへの挑戦である。
東京証券取引所と経済産業省が2月26日、女性が活躍している東証1部企業を「なでしこ銘柄」として発表したことからも、企業成長を支える「女子力」に注目が集まっていることは間違いない。そして、実際に女性チームによって開発された商品が続々とヒットを飛ばし始めている。
例えば、パナソニックでは、自宅でエステ並みのケアができるスチーマー「ナノケア」を女性チームで開発。発売から累計で260万台を売り上げる人気商品へと成長している。また、コンビニエンスストアのデイリーヤマザキは、女性社員だけの商品開発チームを組織。女性向け新ブランド「美◆Happy」(◆はハート)を立ち上げ、注目を集めた。このほか、サントリーのノンアルコールカクテル「のんある気分」は、アラサーの女性チームが開発を担当。ノンアルコール市場での出遅れを取り返すように、予想の倍以上の売れ行きを見せているという。
さらに、男性向けアイテムというイメージが強いクルマ業界でも、女性による商品開発チームによるヒット商品が生まれている。最近、主婦を中心に人気が急上昇している「プチバン」だ。トヨタのプチバン「ポルテ」「スペイド」も、同社が立ち上げた「FF ファクトリー」が開発に携わっており、プチバン市場を牽引するヒット商品となっている。
「FF ファクトリー」とは 「Future Female」の略で、“女性視点でのカーライフを創造する”ことを目的に、トヨタの社員や、販売スタッフ、そして一般モニター400人のメンバーによって構成されたチーム。その活動は、商品企画開発のサポートからマーケティング、プロモーションの提案まで多岐にわたり、女性ならではの視点から「ポルテ」「スペイド」の商品コンセプト作りに大いに貢献したという。
カーライフジャーナリストのまるも亜希子氏は、「クルマの開発において、運転席から見たり感じたりする良さと、助手席や後席から見たり感じたりする良さは、大きく異なるものになる。女性は日によって運転席・助手席・後席と入れ替わって乗ることが多く、日頃の買い物や子どものベビーカー、自転車を積む、またはチャイルドシートの世話をするなど、実は荷室やシートアレンジを頻繁に使っている。そのため、クルマに対して評価したり要望を出したりする時に、女性の方が幅広い視点から見ることができる」と、クルマ開発での「女子力」の重要性を指摘する。
「トヨタの『ポルテ』『スペイド』では、家計を預かり、子どもと接する時間が長く、少しでも毎日の利便性を上げたいと願う女性ならではの工夫が、たくさん実現していると感じる。たとえば、ドリンクホルダーはこれまで円形が常識だったが、紙パック飲料が入るよう角形にしてあったり、買い物リストなどを挟むのに便利なメモホルダーがあったり、雨の日に車内でいつも邪魔になっていた傘も、スライドドアの脇の傘立てに収納できてとてもスマート。また、今までは女性がひとりで重い自転車を積み込むのは至難の業だったが、『ポルテ』『スペイド』はフロアが低い上、スライドドア側から積み込めるように工夫されている。後席に身長が測れるスケールが刻印してある遊び心なども、女性らしいと感じた」と、女性チームが開発のサポートをした「ポルテ」「スペイド」の注目ポイントをまるも氏は解説。
「これらの工夫は、今まで一度でもクルマに乗る上で不便に思ったり、苦労をした経験がある女性なら、すぐにピンときて魅力的に映るはず。また、これらは決して女性だけに良いのではなく、男性や子ども、お年寄りにもメリットが大きいのがポイント。こうした『運転する人・座る人・使う人』すべての視点を持つ女性ならではのアイデアが活かされたことが、『ポルテ』『スペイド』がヒットした秘訣だと思う」と、プチバン市場で「ポルテ」「スペイド」がヒット商品へと成長した理由を分析した。
これからも、業界を問わず、女性による商品開発チームの活躍の場はさらに広がっていくはず。景気回復を後押しする意味でも、今後、女性による商品開発チームからどんなヒット商品が生まれてくるのか注目される。