バイデン氏の勝利が確実となった11月中旬、菅首相はバイデン氏と早々に電話会談し、日米安保条約の尖閣諸島での適用を確認した。しかし、実際に尖閣をめぐって中国と日本が紛争状態になった時に、アメリカがその前面に出てくれるかは怪しい。AERA 2020年11月30日号では、日米安保をめぐるアメリカの思惑に迫った。
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米大統領選挙で勝利が確実となったジョー・バイデン氏と菅義偉首相は12日、電話で約15分間会談し、バイデン氏は「尖閣諸島に日米安全保障条約が適用されることにコミット(約束)する」と述べた。日本政府には「菅首相の成果」「百点満点」と自賛する声も出るが、実は尖閣諸島が安保条約の適用対象であるのは自明で、大喜びするようなことではない。
安保条約に基づく在日米軍の地位に関する協定(地位協定)により米軍に提供されてきた施設・区域には、尖閣諸島の黄尾嶼、赤尾嶼が含まれている。米海軍はこの2島を射爆撃場(標的)として使っていた。この小島の名は中国風だから、日本では近年黄尾嶼を「久場島」、赤尾嶼を「大正島」と称することが一般化した。
だが、地位協定では昔の名前のまま提供区域となっている。安保条約、地位協定により尖閣諸島の島が米軍に提供されている以上、米国はそれが安保条約の適用対象であると言わざるをえない。これまで米国大統領や国務長官などが何度も言ってきたことであり、バイデン氏は当然のことを言ったまで。これを菅首相や日本外交官の「成果」とするのは滑稽だ。
■前面に出たくない米軍
安保条約5条は日本国の施政の下にある領域への武力攻撃に対し、日、米が「共通の危険に対処するように行動する」と宣言している。だがそれは「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」行うことになっている。
米国憲法第1条第8節の11項では、戦争を宣言するのは議会の権限と定めている。実際には第2条第2節の1項に大統領は軍の最高司令官である、とあり緊急事態の部隊投入は原則として60日以内に議会の承認を得ることになっているから、議会の宣戦布告や承認なしに戦闘を始めたことは多い。