中国の芸術家、徐勇による、性工作者の写真をメインとした展覧会「THIS FACE」は横浜市のBankART KAIKOで8月16日(月)まで (c)BankART 1929
中国の芸術家、徐勇による、性工作者の写真をメインとした展覧会「THIS FACE」は横浜市のBankART KAIKOで8月16日(月)まで (c)BankART 1929
この記事の写真をすべて見る

 北京に暮らす、ある女性の一日を500枚の肖像写真でつづった写真展が横浜市で開かれている。連続して観る彼女の表情からは、中国社会の一端が浮かび上がる。AERA 2021年8月2日号から。

*  *  *

 中国の芸術家、徐勇(シュイヨン)の写真展が横浜市で開催されている。ある女性の一日を、500枚の肖像写真だけでつづる展示と聞いて、単調さをイメージすると、観る者は足を掬(すく)われる。

 この女性は北京在住の、実在する「女性性工作者」の紫U(ジユ)。女性性工作者とはセックスワーカーを指す中国語で、侮蔑的に娼婦と呼ばれることもあるが、徐は彼女たちのひたむきな生き様に敬意を込めて、常にこの呼称を用いている。

■普遍化する性産業

 本作品の制作動機について徐は「1990年以降、中国経済が急速に発展し、都市と農村、沿岸地区と内陸地区の所得バランスが崩れ、貧富の差は拡大。そんな中、性工作(売買春)サービスが普遍の存在となり、膨大な地下産業になった」ことを挙げる。

 さらに表現手法について徐はこう説明する。

「1枚の肖像はポイントの表現でしかなく、一日の中でさえ顔の有り様は変わります。性工作者ほど顔の有り様に変化がある者が存在するでしょうか? 一日中化粧をくり返す紫Uの社会性を、同じ構図の顔を見比べることで生じる視覚効果で表現しようと試みたのです」

 展示会場で鑑賞者は、女性性工作者が起床した直後の心情、身繕いをしてクライアントと相対し、また次のクライアントの好みに合わせて化粧や服装を替え仕事をこなす合間の気持ち、この行為を何度も繰り返した末に床に就くまでの心の動きを、切り取られた時間の連なりだけを頼りに想像する。

 無表情な素顔から化粧をした顔に変化するだけでなく、接客後の表情の変化が迫ってくる。全く同じ構図が続くために、鑑賞者は、いや応なく、繰り返される微細な感情の変化を、その表情から読み取ってしまうのだ。

次のページ