「日本以外の世界の国々では、緊急事態には厳しい罰則規定がある。罰金を取られるか、逮捕される危険性もある。だが、日本には罰則規定はない。なぜないのか」
安倍首相は、「そんなことしたら政権がもちませんよ」と苦笑して言った。
日本では、有事の医療体制に切り替えて、厳しい罰則規定を設けることに、野党もマスメディアも、そして国民の多くも反対なのである。だから、菅首相も日本ではロックダウンなどできないと表明している。
しかし、このまま衆院選に突入すれば、自民党が大きく議席数を減らす危険性があった。
何よりも、多くの国会議員が、自分たちが落選する恐れを強く感じている。そこで、安倍氏や麻生氏たちは、総裁選を先に行うべきだと求めているのだ。
それに対して菅首相は、新型コロナ感染拡大を抑え込むのは自分の責任であり、感染拡大に積極的に取り組んでいることを示すために、内閣改造、党役員人事を行おうとしていた。
急転直下の総裁選不出馬は、特に小泉進次郎氏に党幹事長職を断られるなど、党役員人事がうまく進まなかったことが原因のようだ。
総裁選、衆院選を経て、自民党がどう変化するか。注視したい。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2021年9月17日号