生涯現役を貫き2021年11月に99歳で亡くなった作家・瀬戸内寂聴さん。半世紀にわたって交友のあった横尾忠則さんと亡くなる直前まで続けた週刊朝日連載「往復書簡『老親友のナイショ文』」の書籍化第2弾で完結編となる『寂聴さん 最後の手紙 往復書簡 老親友のナイショ文』が2022年3月7日(月)に発売となった。
この記事の写真をすべて見る「セトウチさんへ」と、ヨコオさんからは日々の生活の様子やアートについて、さらに生と死について問うと、セトウチさんは、「ヨコオさんへ」とはじまる返信はその問いに答えたり、答えなかったり。不思議な「寂聴ワールド」と「横尾ワールド」が交錯する。
コロナ禍では瀬戸内寂聴さんは「ヨコオさんは、コロナの退陣は、世界中の人が心を合わせて、コロナに向けて『消えてしまえ!』『あっち行け!』という想念エネルギーを送ったら、奇跡が起こるかもしれないとおっしゃいます。もしそれが効くなら、私こそその役を引き受けるべくこの世に送られてきたのかもしれません。あなたもはるばる参って下さった岩手県の極北のわが天台寺を想いおこしてください。あの遠い天台寺の住職として呼ばれて、二十年も通った私は、あそこで『雨よ止めっ! エイッ!! 』と叫ぶと、ああら不思議、雨が止むという秘術を観音様に頂きました。あの術で『エイッ! コロナ死ねっ!」とやってみましょうか」と世を憂う。
一方、甘いもの、とくにぜんざい好きの横尾忠則さんは「池田満寿夫と熱く交わした、ぜんざい論争」で「彼(池田)は長野出身で、ツブあんを否定する。僕にすればコシあんこそ否定的対象だ。コシあんは口の中でもコシあん、胃袋に入ってもコシあん。それに対してツブあんは、口の中でツブあんだけれど噛みくだいて胃の中に流し込んだ時にはコシあんにメタモルフォーゼして、二度感触が味わえる。まさに芸術ではないか、と僕。池田さんは最初から最後まで変らないのが伝統だと言い張る。僕はあくまでもブルトンのシュルレアリスムで応戦。池田さんの信奉するピカソも、君の作品だって変化するのに、変化しないコシあんが好きだというのは、君の芸術観は不正直過ぎると再び突っ込む。彼は僕のツブあんがコシあんに変化するのは一貫性がないと言う。それに対して僕は一貫性に固執するその態度は権威主義的で人間としても面白味がない、作品はコロコロ変化する多様性こそ現代社会に対応しており、固執するのは停滞の証拠だ」と思いと持論を展開する。
業界の枠を超えて活躍する第一線の表現者でありつつも、時に人間らしさも見え隠れする、お二人のホンネがつまった書簡が交わされた。
本書の最後には「往復書簡の最後の往を書きます。セトウチさんからの復はいただけないことを承知で、お便りします」と最後の最後のお便りが。
瀬戸内寂聴・横尾忠則という稀有な芸術家の生き方、考え方を知る至極の一冊。
『寂聴さん 最後の手紙 往復書簡 老親友のナイショ文』
発売日:2022年3月7日(月曜日)
定価:1870円(本体1700円+税10%)