小泉:リリーがキャバレー回りの歌手として映画の中で「私の生き方はあぶくみたい」と言っているんです。浮かんでは消えるあぶく。何か少し寂しい感じもしますね。それが伝わってくる台詞です。だから、八代さんのそういう経験も踏まえて、山田監督は49作のときに主題歌を歌ってもらおうとなったんじゃないですか。
八代:主題歌をお願いされたときは、本当に嬉しかったですよ。私、寅さんを尊敬していましたから、ああいう情の深い人がいたらいいなあとずっと思っていて、毎年お正月は「男はつらいよ」を観に映画館へ行ってました。
小泉:そうなんですか。毎年。
八代:そう、そういえば私の座長公演には渥美(清)さんは毎年いらしてくださいました。私たちにはおっしゃらずに、ご自分でチケットを買って。
小泉:渥美さんは一般のお客さんと一緒にご覧になるんです。席も後ろのほうに座るんです。そうすると全体の反応がわかるから。どういうところで人は笑い、どこで泣くか、その場の空気を受け止め、勉強していたんですよ。
八代:「今年も渥美さんいらしてますよ」と聞くのですが、こちらからお声をおかけすることはしませんでした。
小泉:毎年いらしたのは八代さんの座長公演が大好きだったんでしょうね。
八代:心の中で「よっ! 亜紀ちゃん!」とかやってくれていたのかな。
小泉:49作で八代さんが歌った主題歌はブルースですね。
八代:そう、八代ブルース。八代節です。あれは男唄。男心を歌うので、男の人になって歌っていました。
小泉:主題歌は歌われましたが、マドンナのお話はなかったのですか。
八代:私がコンサートに、テレビにとスケジュールが合わなくて、実現しなかったんです。
小泉:どこかの回で八代さんをと、山田監督は考えていたんじゃないですかね。演じるならどんなマドンナがいいですか。
八代:うーん、わからないですね。それは監督がお考えになるから。はるみちゃん(都はるみ)は歌手でしたね。
小泉:そうです。「京はるみ」という売れっ子の歌手。
八代:私も歌手かな。