首都圏には実に多彩な中学校があり、中学受験をする子どもや家庭の姿も多様化している。単に偏差値の数字だけで「志望校」を決めるのではなく、さまざまな選択肢からわが子の「進路」を見定めるには、どんな点に着目すればいいのか。AERA進学MOOK『カンペキ中学受験2024』では、中学受験の入り口で考えるべきことについて、安田教育研究所の安田理さんに聞いた。

MENU あふれる情報だけでなく子どもの意思を重視 わが子をよく見ることで受験の時期が決まる 「いま」を大切にして中学受験を豊かな経験に

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あふれる情報だけでなく子どもの意思を重視

 中学受験を見続けている安田教育研究所の安田理さんに、まずは2023年の受験動向から読み取れることを語ってもらう。

「今年も顕著なのは、いわゆる『隔年傾向』です。22年には自由でのびのびした校風の学校が人気を博しました。時代の求めによるものだと感じましたし、こうした流れは続くのかなと考えていました。しかし、23年にはそうした前年の人気校が軒並み減少に転じました。これは受験生の保護者がとても熱心に情報収集を行っていて、状況の変化に非常に敏感に反応しているということです」

 つまり、22年に人気が伸びた学校は入りづらいと敬遠され、23年は倍率を下げた。前年の傾向を如実に反映して人気校がくるくると入れ替わる、これが「隔年傾向」だ。もちろん反対の現象も起きており、22年に倍率を下げた伝統校が、今年はぐっと上がった例も。こちらは狙い目だと見られたためだろう。

 安田さんは「最新情報を集めるのは悪いことではありませんが、情報に踊らされてしまうのも考えもの。人気だけで受験校を決めるのは、ラーメン屋さんの行列に並ぶのと似たようなものではないでしょうか」と注意を促す。

受験の裾野が広がり家庭の層も多様化

 ここ数年の受験者数増加は著しく、その分、受験に臨む家庭と子どもの層も多様化している。従来の中学受験で多かったのは、低学年から大手塾に通って最難関校を目指す家庭か、小学校4年生になるタイミングで塾に通い始める家庭だ。加えて近年は、習い事なども続けながら挑む「ソフト受験」なども増えている。新たに中学受験に参入した層は必ずしも難関大学志向ではない。思考力や英語力などを磨き、不確実な未来を生きるスキルを身につけようと考える人も多い。

「中学受験をするかどうか家庭で考えるとき、何より大事なのは子どもの意思です。物事を成す時期の重要性を表す言葉に『そっ啄の機』というものがあります。『そつ』とはひな鳥が卵から出ようと内側からつつく音のことで、『啄』は親鳥が外側から殻を割る手助けをする音。この両者が一致することが大切だということです。子どもがまだその気でない場合は、無理に殻を引きはがすようなことをせず、本人のやる気を待つという選択肢があってもいいでしょう」

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鈴木絢子
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