『Smokin' in the Pit』Steps
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『Smokin' in the Pit』Steps

「ステップス」はブレッカー兄弟経営のクラブ「セヴンス・アヴェニュー・サウス」で産声をあげた。マイク・マイニエリ(ヴァイブ)がリーダー格で、マイケル・ブレッカー(テナー)、ドン・グロルニック(ピアノ)、エディ・ゴメス(ベース)、スティーヴ・ガッド(ドラムス)という面々だ。まもなく機を見るに敏だった我がジャズ界に招かれ、1980年12月に早くも来日を果たす。時はフュージョンの絶頂期、ゴメス以外はその代表格とあって熱烈歓迎をうける。ところがだ、蓋を開けてみると彼らが繰り広げたのはストレート・アヘッドで、場違いに思えたゴメス参加のわけも知れた。驚いた者もいれば失望した者もいたはずだ。しかしである。ここでグループが示した新感覚のストレート・アヘッドは、フュージョンに打ち込みつつも「ジャズに“行かねばの娘”」と焦っていた若者に福音となったのだ。プロ、アマ問わずグループを手本にした者は少なくなかった。

 六本木「ピット・イン」で収録された推薦盤は、実質的に彼らのデビュー作にあたる。1981年にLP2枚組(日Better Days)で発表され、1995年にCD2枚組(同/上の画像)で、1999年に別テイク2曲と未発表3曲を加え、曲順も替えたCD2枚組(米NYC/下の画像)で再発された。オリジナル盤に準じた国内CDにそって見ていく。収録曲は、ミディアム~ファストのイケイケ系と、バラード系が交互に配置されている。

 マイニエリ作《ティー・バッグ》は《フレディ・フリーローダー》の拡張版にも思えるシンプルなスインガー。タテ乗りガッドと前のめりゴメスがぐいぐいドライヴするなか、グロルニックはノリノリでガーナー・タッチまで披露、マイケルはホット&ファンキーな大ブロウで場を沸かせ、マイニエリも弾けること弾けること。端から推薦盤屈指の名演。

 スタンダードの《ラヴァー・マン》はマイケル抜きで。マイニエリの独壇場だ。グロルニックも上々だがマイニエリが再登場すると印象が薄れる。ガッドはブラッシュで神妙にサポート、ゴメスがさすがに巧い。古いスタンダードが甦るクールでフレッシュな秀演。

 グロルニック作《フォールティ・テナーズ》は真っ向勝負もの。グロルニックが豪快に弾き抜け、マイニエリが秀でた構成力とスピード感で叩き抜け、マイケルがテクニカルにパッショネイトに吹き抜け、「矢でも鉄砲でも持って来やがれ!」てな気分になる熱演。

 マイニエリ作《ソング・トゥ・セス》もマイケル抜きで。録音のせいかグロルニックのタッチが繊細さを欠き煩く響く場面も。やはり作曲者自身が勝り、中盤の無伴奏ソロでは想像の翼を広げて遺憾がない。ポップな感覚に溢れた曲想もあって、うっとりくる佳演。

 ザヴィヌル作《ヤング・アンド・ファイン》は中期「ウェザー・リポート」の定番だ。マイケルの執拗な攻め立てにのぼせ、ゴメスの好悪を一蹴する美技に唸り、グロルニック以上によく歌いよくスイングするマイニエリに惚れ惚れ。清新な編曲が生み出した快演。

 マル・ウォルドロン作《ソウル・アイズ》はマイケル入り。そうこなくてはいけない。コルトレーンの名演があるのだから。グロルニック、マイニエリの抒情滴る佳演に続き、マイケルがトレーンに依らず裡なるエモーションを吐き出していく。胸に沁みいる名演。

 マイケル作《ナット・エチオピア》も真っ向勝負もの。フュージョン丸出しテーマからハード・ドライヴァーに切り換わる。渡辺香津美(ギター)が焦燥感一杯に弾きなぐり、マイケルがトップギアで激走、ガッドのいつかどこかで風のソロも楽しからずやの力演。

 マイニエリ作《サラズ・タッチ》はもろフュージョン。ソロはポップ・バラード風から身も世もない情感の表出に向かう。マイケルが中盤からソウルフルにうなりをあげれば、マイニエリも中盤から泣き節を連ねる。深い感動とはいかないがエモーショナルな快演。

 ヒーローはなんと言ってもマイケルだ。これほどブチきれたマイケルはそう聴けまい。次いでマイニエリだ。ここでの構成力に富んだソロで非凡な作編曲能力のほども知れる。フォービート復興に一役買った推薦盤は同年屈指の傑作ともなった。強力にお薦めする。

 米盤の追加曲を見ておこう。《フォールティ・テナーズ》と、渡辺のいない《ナット・エチオピア》は本テイクに及ばない。グロルニック作《モメント》は短いピアノ・ソロ、イントロの抜粋にも思えて蛇足感ありありだ。ここまでなら見送りだが、困りましたね。グロルニック作《アンクル・ボブ》ではマイケルは言わずもがな、グロルニックが一番の好ソロを繰り広げ、ジョー・ヘンダーソン作《リコーダ・ミー》ではマイケルがジョーの発展形と呼ぶべき破竹の力演で迫る。ともにオリジナル収録曲に勝るとも劣らないのだ。とはいえ米盤の曲順には異和感を覚える。巻末に!2曲を追加して再発されないものか。[次回9月1日(月)更新予定]

【収録曲一覧】
『Smokin' in the Pit』Steps(Jp-Better Days)

[Disc 1] 1. Tee Bag 2. Lover Man 3. Fawlty Tenors 4. Song to Seth
[Disc 2] 1. Young and Fine 2. Soul Eyes 3. Not Ethiopia 4. Sara's Touch

Mike Mainieri (vib), Michael Brecker (ts except 1-2, 1-4), Don Grolnick (p), Eddie Gomez (b), Steve Gadd (ds), Guest: Kazumi Watanabe (el-g on 2-3).

Recorded at Pit-Inn, Roppongi, Tokyo, December 14 & 16, 1980.

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。

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