良質の歴史の本を読んだような気持ちになれる。子供の頃、親の本棚にあった中央公論社の「日本の歴史」「世界の歴史」シリーズを読んだ時の、「堅い話が面白い」というあの感じ。中公の「日本の歴史」って、たまに挿入される写真がどういうわけだか粒子が粗く、陰気に写っていて、それも子供をドキドキさせた。
 近代の大阪の歴史を政治の面から見て書いています。たかだか19世紀末からの短い歴史で、おまけにそれは「よく知ってる大阪」で、ちょっとだけ昔のことを書いてあるのにもかかわらず、それが「自分の知ってるこの大阪とは違う」ように感じられる。よく見知った世界で見知った人が動いているのにそこは別の次元で、歩いている人とぶつかりそうになっても体をすりぬけてしまう、というような。そんな文学的な気分を味わえるのが良質な歴史書でして、この『大阪』もまさにそういう本です。
 田んぼが広がっていた大阪平野が、いかなる都市計画のもとに、人口・面積ともに東京市を上回る「大大阪」といわれる都市となり、そして行き詰まって現在に至るか。景気がいいと言われた時代でも自分には景気のいい話がなかった私にとって、政治家に今の大阪は行き詰まってるって言われても「昔と同様じゃ?」と実感があまりなかったんだけど、この本を読むと、「伸びていこうとする都市」としてのイキイキした大阪がちゃんとあって、今は確かにソレはないなと実感できる。発展しかかっている頃の大阪って、繁華街があって郊外があって、娯楽があって文化があって緑があったのだ。
 当時の都市計画をした市長が偉かったんだろうとも思う。時代も良かったんだろう。人が生きてるとキレイな時もキタナイ時もある。都市にもあるってことだ。橋下徹が府知事になってからのことも書かれているが、この本の写真は暗くて粗くてコワイ。ごく最近の写真ですらこんなふうに載せてしまう、これは正しく「良質な歴史書」です。

週刊朝日 2013年1月18日号

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