ビジネスのDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が増すなかで、2012年にサブスクリプションサービスをいち早く取り入れ、DXに成功したアドビ。その体験を顧客とも共有していきたいと話すのは、アドビ株式会社CDOの西山正一さんだ。アドビが行ったDXについて聞いた。
■生き残りをかけた経営改革
クリエイティブソフトウェアのリーディングカンパニー・アドビ。同社はサブスクリプションサービス「Adobe Creative Cloud」を主軸として成功させ、現在も成長し続けている。
それ以前は、家電量販店などでクリエイティブツールをパッケージで販売する売り切り型だった。サブスクリプションサービスへと事業の大転換を図った背景を、西山さんは次のように振り返る。
「スマートフォンの台頭やWebブラウザの進化もあり、めまぐるしい速さで仕様変更が求められました。しかし、私たちの新製品販売には1年半くらいの間隔が必要だったので、到底追いつかない。そこで、お客さまに最新の機能を提供し、かつ利益につなげるために考えたのが、機能をリアルタイムでアップデートできるサブスクリプションサービスでした。まさに、生き残りをかけた経営改革だったのです」
■ユーザーのニーズに合ったサービスを拡充
導入当初、すべてのアドビ製品が収録された「マスターコレクション」は35万円程度だったのに対し、サブスクリプションサービスのAdobe Creative Cloudを購入すると、月額5千円で同じ機能が使えた。
複数のアドビ製品を仕事などで使用するユーザーには喜ばれたが、特定の製品だけを使いたいユーザーからは、「毎月の利用料を払うのは割高に感じる」といった反応が返ってきたという。
「そこで単体プランも用意したほか、使える書体が自動で増えるAdobe Fontsなど、制作環境の付加価値を高める細かいサービスを拡充したのです」
■Adobe Creative Cloud の好調で2021年度は過去最高の売り上げに
常にユーザーのニーズにきめ細かく対応しながら、サービスを提供し続けたアドビ。やがて、誰もがスマートフォン一台でイラストや動画などを簡単につくれる時代となり、趣味として利用するユーザーが増えたことも追い風となった。
結果、Adobe Creative Cloud の売上高は伸び続け、2021年度の通期連結決算(米アドビ発表)は、売上高157億9千万ドルと過去最高に達している。
■DDOMを導入し、マーケティングも変化
アドビが行った事業転換は、マーケティングも大きく変化させた。
「売り切り型は、製品を購入いただくことがゴールだったのですが、サブスクリプションサービスでは、契約を更新していただくことが一番重要になります。そこで2016年に導入したのが、DDOM(Data Driven Operating Model)という仕組みです」
まずは、カスタマージャーニーといわれるマーケティングの流れを、「Discover(Adobe Creative Cloud を知る)」「Try(体験版を使ってみる)」「Buy(契約する)」「Use(ツールを使う)」「Renew(契約を更新する)」という五つのステージに分けることから始めた。
ステージごとにデータを可視化して、どこの時点で、売り上げが伸びたか、もしくは顧客が離脱したかといったことを把握し、次の対策を考えるというビジネスの進め方だ。
「カスタマージャーニーから得られる膨大なデータを本社で一括管理し、ひとつのダッシュボードに反映しました。ダッシュボードで、同じ数字を同じタイミングで社員全員が確認できることで、ビジネスの状況や課題の共有がスムーズになります。土日に収集されたデータを、週明け月曜の朝にはダッシュボードで確認でき、関係スタッフが議論し、夕方には取るべき対策が決定。翌火曜には行動に移すことができます。以前は1週間以上かかっていたプロセスが、たった1日で効率的に進められる、このスピード感がお客さまの満足度につながっているのです」
■DXとは単なるデジタル化ではない
「DXは書類をペーパーレスにするといった、アナログをデジタル化することではありません」と西山さんは言う。
「私が考えるDXは、経営改革です。アドビの場合は、お客さまに満足していただくために、ビジネスモデルをサブスクリプションサービスに変えました。満足度をデータで可視化して社員全員が共有し、対策を立てる。目的は、デジタルを活用して経営課題を解決し、大きく飛躍することであって、社内のシステムを単にデジタル化することとは違います」
■DXを始めるなら、まずデータを集めることから
さらに、西山さんは次のように続ける。
「『DXに関心はあるが、どこから手をつけたらよいか分からない』という相談をよく受けます。そんなときは『手がけている仕事に関するデータを集めるだけでも十分ですよ』と答えています。売上高・集客率・顧客の反応などをデータで集計して可視化すると、『ホームページの色を変えたら、女性客が増えた』など、何がきっかけでどう変わったのかを把握できるようになります。その分析から、次のステップへ移行するアイデアが浮かぶのではないでしょうか」
西山さんは、「DXの話をしてほしい」とさまざまな企業から声をかけられ、直接その企業に出向いて話をする機会が増えているという。
「アドビはクリエイティブツールを提供するだけでなく、お客さまのDXを支援する会社でもあります。自らDXを実践してきた経験を生かし、さまざまなアイデアやヒントをお伝えできるパートナー企業として、これからもお役に立てればと考えています」
提供:アドビ