映画を作ろうと思ったのは5年目だった。ある日、数日前までアブラムシに覆われていた果物の木を見るとアブラムシがいなくなり、そこにいたのは天敵のてんとう虫だった。農場にいろんな野生生物や昆虫が戻ってきたことで悩みの種だった害虫が駆除されたのだ。生物多様性による自己抑制は確かに、害虫の大量発生や病気の流行を防いだ。
そこから映画制作に本腰を入れた。何年もかかってやっと撮れたショットもあれば、巣を作った鷹がムクドリを捕獲するシーンなど、「なかには2秒のショットのために3年から5年かかったものもある」と言う。
「これと思ったら1日中カメラを置いて、インターンにいてもらうということもしました。撮影は何時間でも何週間でも(納得いくまで)時間をかけて行いました。プレッシャーはなかったんですよ。なにしろ私はファーマーですから(笑)」
◎「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」
究極の農場づくりに奮闘する夫婦の8年を追ったドキュメンタリー。3月14日から全国順次公開予定
■もう1本おすすめDVD 「不都合な真実2 放置された地球」
ジョン・チェスター夫妻が仲間たちとつくり上げた美しい農場は、人間にとっても動物や植物にとってもバランスが取れた理想の世界。さながら地上の楽園だ。だが、生態系のバランスが崩れてしまうと、たちまち害虫が増えたり、大雨で死んだ土壌が流されたり。気候変動や環境の変化が自然の免疫力低下を引き起こすのは明らかだと思える。
「ビッグ・リトル……」が地球の処方箋のように感じたのは、「不都合な真実2 放置された地球」を見ていたことが大きい。アル・ゴア元米副大統領が気候変動を食い止めるために日々世界各地を奔走するドキュメンタリー。人類が直面する問題をさらに切実に実感することになる。
氷が溶けるグリーンランド、米・ルイジアナの大洪水。インドの酷暑は道路のアスファルトを溶かすほど。履き物を取られて転倒する暑さを想像できるだろうか。
パリ協定批准までの裏話を見ていると、某国首脳の身勝手さに呆れるばかりだ。
すでに米国はパリ協定から離脱を宣言したが、トランプ大統領が今秋再選すれば確定する。私たちが直面する問題は、どうやら気候変動だけではないようだ。
◎「不都合な真実2 放置された地球」
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
価格1429円+税/DVD発売中
(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2020年3月16日号
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