2007年から約12年間、アエラでコラムを連載していたぐっちーさんが亡くなって約5カ月。トランプ大統領誕生から、亡くなる直前に書かれた絶筆までの177本を完全収録した遺作、『ぐっちーさんが遺した日本経済への最終提言177』が2月21日に発売された。そんな177本から、編集者が真っ先に読んでほしいと思った「名作」トップ10を厳選。今回は番外編その2として「さすがの表現力示したコーエンのトランプ評」を紹介する。

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 大騒ぎした米朝首脳会談は予想通り何もなしとなりました。その場で決めようという意識が強く、事務レベルで煮詰まっていなくてもお構いなしに動くトランプらしい結末でしょう。日本では大きな紙面を割いたようですが、アメリカではこの記事はほとんど取り上げられませんでした。

 というのも、同じタイミングでトランプ大統領の元個人弁護士マイケル・コーエンの議会証言が7時間以上にわたりライブ中継され、米国中が釘付けになりました。当然メディアの報道もコーエン一色になり、米朝首脳会談はもとより、同日に開催されたライトハイザーUSTR代表とパウエルFRB議長の議会証言もかすむほどでした。

 中でも秀逸だったのが、コーエンのこの発言です。

「I am ashamed because I know what Mr. Trump is.He is a racist. He is a conman. He is a cheat.」

 私はこれを「奴は人種差別者で、詐欺師で、とんでもないインチキ野郎だ!!」と訳しました。いくら何でも昔の同僚、同志に対してここまで言うか、というほどひどい発言ですが、米国のエリートたち、特にコーエンのような弁護士は、法廷に立って陪審員をたきつけたり、強烈な印象を与えたりするのが重要な職務なので、相手の足を徹底的に引っ張るときの表現の豊かさにはすごいものがあるのです。平易な言葉で相手の弱点や核心を突きまくるわけですね。

 
He is a racist.
He is a conman.
He is a cheat.

 文体が揃い、4語目は子音のあとがエイ、ォ、イーときれいに母音が並び、絶対忘れない作りになっていますね。

「a racist」は人種差別主義者。「a conman」と「a cheat」を両方とも詐欺師と訳しているメディアが多くありますが、ニュアンスが違います。「conman」はまさに詐欺師で、相当手が込んだストーリーテリングや、事実に見せかけたうそをちりばめ、戦略的に相手を騙す人々。

 一方、「cheat」となるとそこまで緻密な戦略はないものの人をだますという点は共通で、ペテン師や、単なるインチキ野郎、というニュアンスが強い。これを三つ並べられるのはさすがというしかありません。ひでー奴だ、という印象を与えるには十分です。

 文字数、語呂、韻、意味など平易な英語で完璧に表現しており、全米中が受けまくっていた、という現実があります。このあたりはさすがに米国の現役弁護士だ、と思わせるものがありますね。

 米国のエリート層の多くは高校のときからディベートなどで鍛えまくってますから、屁理屈を言わせたら右に出るものはおらず、日本人は歯が立ちません。これほどクリアに足を引っ張る表現は、私にもちょっと思いつきませんでした。やられました!

※AERA 2019年3月18日号