アエラにて好評連載中の「ニッポンの課長」。
現場を駆けずりまわって、マネジメントもやる。部下と上司の間に立って、仕事をやりとげる。それが「課長」だ。
あの企業の課長はどんな現場で、何に取り組んでいるのか。彼らの現場を取材をした。
今回はアシックスの「ニッポンの課長」を紹介する。
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■アシックス スポーツ工学研究所 フットウエア機能開発チーム マネジャー 森安健太(34)
中学生のとき、陸上部だった。世界陸上でカール・ルイスやリーロイ・バレルが活躍しているのに夢中になった。彼らがスパイクにこだわり、メーカーと協力しているとニュースで知り、将来の夢を描いた。
選手としては、大学時代にトライアスロンでインカレ10位。京都大学大学院に進み、就職活動で、神戸市にあるアシックスの研究所を訪問した。人間の動作を科学的にとらえ、シューズの機能性を、感覚ではなく分析によって数値化するやり方に一目ぼれした。
「これほど多くの機械がそろった研究所を見たことがなく、モチベーションが一気に上がりました」
森安健太は今、シューズの機能・構造研究に携わるチームを率いる。10人の部下は全員35歳以下の研究職。機械工学、バイオメカニクス、理学療法学などの専門分野を持ち、スポーツにも打ち込んできた。森安自身も、スポーツでリフレッシュすることで、新しい発想が浮かぶという。
「パワフルで、いつも前向き。やるぞ!という気持ちにさせてくれる」
部下の森安評だ。
4年前には、東北大学大学院に社会人入学。シューズのグリップ性に関する研究で博士号を取得した。タイヤや軸受け(ベアリング)設計などの分野で研究されていたトライボロジー(摩擦学)を、シューズに応用して研究した珍しい視点が評価された。
「逆境でも、パワーを発揮できるタイプ」が自己評価。だからか、勤務しながら博士論文を書くのは「ハードだった」と言う口調には、苦労ぶりを思わせるものはなく、さらりとしている。
「ビジネスの視点も求められるので、もっといろんなアンテナを張らなくては」
管理職としてはこう覚悟を決めている。
「チームのみんなと、うまい焼き肉を食べにいくこと」を目先の目標に、ひと踏ん張りするつもりだ。
(文中敬称略)
※本稿登場課長の所属や年齢は掲載時のものです
(ライター・西元まり)
※AERA 2015年11月23日号