同人誌作家にもいろんなタイプがいる。けむほこさんの場合は「萌え」の要素が少ない「サブカル系」の絵が人気を集めている(撮影/村上宗一郎)
同人誌作家にもいろんなタイプがいる。けむほこさんの場合は「萌え」の要素が少ない「サブカル系」の絵が人気を集めている(撮影/村上宗一郎)
この記事の写真をすべて見る

 インターネットの普及で、コンテンツ産業は岐路に立たされている。本が売れない、CDやDVDが売れない──インターネットという怪物の進撃が止まる気配はない。しかし、これに負けない紙メディアの文化がある。同人誌文化だ。

 日本最大の同人誌展示即売会「コミックマーケット」(東京ビッグサイト)の動員数は、55万人を維持し続け、日本全国で開かれる即売会は、大小合わせて年間1千件。万単位の来場者を集めるイベントも少なくない。このパワー、どこから来るというのか。

 東京都練馬区。男性同人誌作家のけむほこさん(29)は、この日もペンを握っていた。

「この1年は、二次創作一本。『アイカツ!』という作品にハマってから、同人誌展示即売会『芸能人はカードが命!』で売ってきました」

「アイカツ!」は、女児向けのゲーム・アニメ作品だ。女子アイドルらが各地で巻き起こす物語を描く。

「悪い人が出てこない。女の子がひたすら仲良くし続ける物語に、心が洗われる」

 同人誌の世界では、性表現も当たり前のようにあるが、彼は「苦手だから、やりません」。登場人物が電車に乗ってお出かけするとか、原作の「if」を描いてきた。10ページほどの冊子を、100円で売ってきた。

「1年で20万円ほどの売り上げがありました」

 副業にしては、立派な数字だ。しかし、同人誌作家としては「飛び抜けた数字ではない」。

「いまは、もっと稼ごうとは思っていませんから」

 けむほこさんには、商業マンガ家として将来を嘱望された時期がある。美大在籍時から同人作家として活躍し、年間100万円を稼いだ。スカウトを受け、24歳で商業誌連載をスタート。単行本も1冊出したが、「筆が遅く、商業誌連載を続けるのがつらくて」26歳で離脱。その後、重度のうつ病も患った。そんな自分を救ってくれたのが「アイカツ!」。いま、「オリジナル作品を再び描きたい」欲求が芽生えてきている。

次のページ