AERA2015年3月2日号 表紙のシャア・アズナブルさん
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AERA2015年3月2日号 表紙のシャア・アズナブルさん
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 多くのファンを持つアニメ「機動戦士ガンダム」。その物語は、人間がわかりあうことの困難と尊さを教えてくれる。それは、現在問題となっている紛争と重なる部分もある。

 テレビアニメ「機動戦士ガンダム」(1979~80年放送)の冒頭で流れるのは、あまりにも有名なこのナレーションだ。

<人類が、ふえすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀が過ぎていた。 地球のまわりの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり…(中略)宇宙世紀0079(ダブルオーセブンティナイン)。地球から最も遠い宇宙都市サイド3は、ジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。

 この1カ月あまりの戦いで、ジオン公国と連邦軍は、総人口の半分を死に至らしめた。人々は自らの行為に恐怖した。戦争は膠着状態に入り、8カ月あまりが過ぎた>

 モビルスーツがド派手な戦闘を繰り広げるのは、作品の肝ではある。だが、歴代作品が追い求めてきたのは、それだけではない。奥底に流れるのは、「異なる人間同士は理解しあえるのか」という、相互理解をめぐる問いだろう。

 立命館大学国際関係学部の教授、末近浩太(41)の専門は中東政治だ。末近は、昨年ウェブメディア「αシノドス」に、ある論考を寄せた。題名は「ガンダム、中東政治、シリア『内戦』」。

 末近は、人間の謀略や暴動、暗殺劇なども描かれるコミック『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』(角川書店)を引き合いに出し、ここに「古い中東」をオーバーラップさせる。

「たとえば、シリアやレバノンの政治ですね。議会での合意形成などによる『表』ではなく、『裏』側の見えないところで政治の趨勢が決定される構図です」

 宗派や民族間の力関係、ときに暴動、暗殺、談合・癒着の果てに決まる政治。こうした不安定で不透明な代物は、金融などで安定した経済基盤を築いたドバイなどと比較すると、古いイメージをずっと引きずっている。だから「古い中東」。

 そんな地域を考えるとき、末近がたとえに出すのは、日本の幕末だ。古い中東で繰り広げられてきたのは、伝統的なイスラム文化への回帰を目指す「攘夷派」と、世俗化を志向する「開国派」による争い。長いせめぎ合いとも言っていい。決着したかと思いきや、争いは何度も再燃してきた。

 ガンダムという物語も、実は同じ構図を持っている。未曽有の総力戦が終結した後、敗れたジオンは複数の残党に分かれた。一方、勝利して地球圏に安定をもたらすはずの連邦からは、「ティターンズ」(地球至上主義を掲げる差別主義者)が生まれ、宇宙移民に非道な弾圧を加える。これに立ち向かうのは連邦から分裂した「エゥーゴ」(反地球連邦組織)。その争いにジオンの残党「ネオ・ジオン」も加わり、三つどもえの戦乱が始まる──。これがテレビシリーズ第2作「機動戦士Z(ゼータ)ガンダム」(85~86年放送)の物語設定である。

 収斂することのない無数の「主義」による戦い。愚かな人間のやることだから、諦めるほかないのか。が、この作品に出てくるクワトロ・バジーナ(シャア)は、こう言っているじゃないか。

「まだ終わらんよ」

 諦めるわけにはいかない。大切なのは、それを収める知恵だろう。

AERA 2015年3月2日号より抜粋