安倍政権が1月31日の閣議で、東京高検の黒川弘務検事長の勤務を半年延長し、8月7日までと決定したことが司法界に波紋を投げかけている。本来2月8日の誕生日をもって退任予定だった黒川氏。現在の稲田伸夫検事総長の後任にするためだとみられる。黒川氏の先輩にあたる高検検事長経験者の弁護士は怒りをあらわにする。
「定年を延長して、検事総長でしょう。こんなこと聞いたことがない、前例もない。そこまで、政治権力と黒川君は癒着しているのか。見苦しい」
そして、立憲民主党の党首で弁護士でもある枝野幸男氏もこう批判した。
「検察官の定年は検察庁法で決められている。国家公務員法の規定を使うのは違法、脱法行為だ」
黒川氏は2月8日で63歳となり、検察庁法では定年だ。黒川氏の後任には、名古屋高検の林真琴検事長が就任し、ゆくゆくは稲田氏の後任の検事総長とみられていた。
ある現役検事も驚きを隠せなかった。
「青天の霹靂ですよ。定年延長だなんてそんな手があったんですね。延長の理由は逃亡した日産自動車のカルロス・ゴーン被告の対応と説明しています。しかし、ゴーン被告は東京地検特捜部の担当で、東京高検は関係ない。レバノン政府など海外の交渉は、法務省が対応。東京高検が一体、これまで何をしてきたのかと非難轟々です」
黒川氏は官邸との距離が極めて近く、浮上する数々の疑惑を「穏便」に処理することで「官邸のお庭番」とも揶揄されていた。自民党ベテラン議員はこう話す。
「官邸にとっては、甘利明氏とURの問題など、疑惑をうまく処理してくれていた黒川氏の存在は本当にありがたいもんだよ。それをうまく使った菅官房長官はさすがだ」
検事総長を任命するのは内閣だ。だが、検事総長自身が後任を決めるのが慣例。それは政治と法務・検察は近くなりすぎてはいけない、癒着がないように独立性を保つという意味合いがある。人事案は官邸に上申されるが、ほぼ異論なく承認される。
「これは安倍政権の指揮権発動と同等だよ。官邸が黒川氏を検事総長にしろと命令しているようなものだ。官邸、政治権力が検察の人事に口出しすることは本来ならあり得ない」(前出・高検検事長経験者の弁護士)