私が10代の頃は、過去を消費するにはかなりの時間と労力が要りました。頑張って10年前の音楽を掘り起こしている内に、あっという間に現実のシーンや流行は変化して、そちらもフォローするのにとても忙しかった記憶があります。そこまでしても、当時の私が得られた『過去』なんて、今の時代なら一晩もかからない程度の量です。もしあの頃、今のように過去を好きなだけ貪れる環境が整っていたら、きっと私は平成という時代にほとんど向き合うことなく生きてしまったかもしれません。
これからの世代は、どんなバランスで令和を生きるのか。音楽だけに限らず、映画や書籍、食やファッションといったあらゆる文化やビジネスは、今まで以上に『過去』の影響を多分に受けることを想定しながら『未来』を見定めていく必要があります。これまで『過去』と処理してきたものが過去ではなくなる。裏を返せば、一度当たって廃れたものや人も、いずれまた『現在』もしくは『未来』のコンテンツの要素として永遠にループする可能性があるということです。この世から『過去』が消える……。この先にあるのは、常に懐かしい未来だけ……。
なんだかちょっと怖い気もしますが、ひばりちゃんの『川の流れのように~30周年記念BOX』や嵐のベスト盤のリリースが待ち遠しいって、要はそういうことですよね。令和の新星、早く現れて! リニア新幹線もとっとと開通して!
※週刊朝日 2019年6月14日号