

ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。米国サイバー軍が行ったロシア企業へのサイバー攻撃について解説する。
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米ワシントン・ポスト紙は2月26日、複数の米当局者の話として、米国サイバー軍がロシアによる選挙干渉を抑止するため、世論工作活動を行っていたロシア企業「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」にサイバー攻撃を昨年実施したと報じた。
当局者によれば、このサイバー攻撃は、投票当日の混乱を誘う世論操作や選挙結果に疑念を抱かせる虚偽情報工作を防ぐために、昨年11月の米国中間選挙の投票日からその後数日間にわたって実施された。
作戦ではIRAを、インターネットから遮断した状態である「オフライン」にした。サイバー軍と国家安全保障局(NSA)の共同で実施され、75~80人が参加したという。
具体的にどのようなサイバー攻撃が行われたかは明らかにされていないが、サイバー軍による「力の誇示」はこれが初めてとなる。
攻撃対象となったIRAは、サンクトペテルブルクに拠点を置くロシア企業で、ソーシャルメディアを利用した世論操作を行っていることで知られている。プーチン大統領に近い実業家の資金提供を受けていることから、ロシア政府とのつながりも疑われている。
2016年米大統領選へのロシアの干渉疑惑では、米国人を騙る偽のソーシャルメディア・アカウントを大量に作成。人種、銃所持、宗教、移民などの社会問題を利用して対立を煽ったり、フェイクニュースを拡散させたりするなど、世論工作を行ったとして18年2月に米大陪審に起訴されている。
米政府は中間選挙を前に、ロシアを含む外国からの選挙干渉に警戒を強め、監視・対策を強化してきた。昨年8月には、トランプ大統領がオバマ前政権のサイバー攻撃規則を緩和する大統領令に署名し、武力紛争には至らない(殺害や破壊活動を伴わない)攻撃的サイバー作戦の裁量権を拡大。9月に発表した「国家サイバー戦略」では、前政権から続いてきた防御主体の戦略を見直し、サイバー攻撃に対してより積極的な攻撃手段を辞さないことを強調した。