この記事の写真をすべて見る
 日本は土地や家などの不動産を「捨てる」ことはできない。しかし、地方や郊外、リゾートマンションなどでは、ただ同然でも売れないようなケースが増加している上、管理コストや固定資産税の負担は残る。こうした“負動産”化に苦しむ人は後を絶たない。だが、ドイツでは、土地を捨てることができると法律に明記されている。この制度はどう運用されているのか。朝日新書『負動産時代』で記者が現地取材し、実態に迫った。

*  *  *

■旧東ドイツで増える土地放棄

 独東部ドレスデン中心部の工業地帯。鉄道沿いの国道を少し入ったところに、コンクリート5階建ての廃墟があった。窓ガラスがところどころ割れ、建物の背後には広大な敷地が広がっていた。敷地面積は約1万5千平方メートル。旧東ドイツ時代には薬品工場として使われていたが、その後、捨てられたという。

 ドイツの民法には「所有者が放棄の意思を土地登記所に表示し、土地登記簿に登記されることによって、放棄することができる」(928条1項)と明記されている。放棄された土地をまず先占する権利は「州に帰属する」(同2項)とも定められている。

 この物件の所有者は2007年、法律に基づいて登記所で放棄の手続きをした。その後はザクセン州財務省系の公的団体「州中央土地管理ザクセン」が管理。物件の調査を担当したクラウディア・トロチェさんによると、立地が良かったためドレスデン市に再開発を持ちかけ、土地を市に無償で譲渡したという。

■無主地の増加による行政の負担増が問題に

 放棄された物件はこの団体が一括で管理している。需要がありそうな物件の情報をホームページで公開し、希望者がいれば売却する。ホームページには、不動産会社の物件紹介のように、農地や家、レストランがずらりと並ぶ。中には、銀行の抵当に入った土地もあった。

 放棄された土地は、どこかに所有させなければならない義務もないため、ほとんどは「無主地」として管理されるが、そのコストは行政が負担せざるを得ない。ドイツ国内でも地域によっては、無主地の増加による行政の負担増が問題になっているという。

次のページ
東西ドイツ統一後の“惨状”