専門家も「ありえない」 陸自ヘリ墜落事故の異例さ

AERA
 陸自ヘリの乗員2人の命が失われ、民間人を巻き込んだ事故。専門家がありえないという事故は海外でも起きていた。

 佐賀県神埼(かんざき)市で2月5日夕、陸上自衛隊のヘリコプターが住宅街に墜落した。沖縄で最近、米軍機の事故が目立っているが、訓練の練度が高いとされる自衛隊で民間人を巻き込んだ事故が起きたことに、首相官邸や防衛省にも衝撃が走った。

 事故を起こしたヘリは、陸上自衛隊目達原(めたばる)駐屯地(佐賀県吉野ケ里町)に所属するAH64D戦闘ヘリコプター。もともと米陸軍向けに開発され、アパッチ・ロングボウという名称もある。大ヒット映画「シン・ゴジラ」にも登場したヘリコプターのひとつだ。操縦していた隊員2人が死亡、墜落で住宅2棟が焼け、避難の際に小学5年生の女児(11)が軽傷を負った。

●離陸からわずか7分後

 防衛省によると、事故機は2006年3月から配備。50時間の飛行ごとに実施される定期整備を実施していた。5日午後4時43分、点検飛行で離陸したヘリは、同駐屯地から南西約5キロ付近に墜落した。離陸してからわずか7分後のことだった。飛行計画では、福岡県の久留米市や朝倉市方面を飛行し、駐屯地に戻る計画だった。ヘリから管制官に異常を伝える交信はなかったという。

 翌6日朝、記者が現場を訪ねると、外壁を残して焼け落ちた一軒家が見えた。会社員の川口貴士さん(35)が、妻と2人の子どもと暮らしていた2階建ての住宅で、近隣住民は「まだ新築されて2年くらいしか経っていない」と話した。

 午前7時を過ぎたころ、防災無線が鳴り響いた。

「ヘリコプター事故による部品等を発見した場合は、触らずに神埼警察署に連絡してください」

 川口さんの自宅前には田畑が広がっていた。周辺にはヘリの割れたガラスや金属製部品が散乱している。道路をはさんで墜落現場の向かい側に住む78歳の女性は、墜落の瞬間をこう振り返った。

「飛行機の音には慣れていますが、明らかにいつもとは違ったプロペラ音でした。破片のようなものが落ちてきて、ヘリもほぼ垂直に落ちてきました」

 当時、川口さんの自宅には長女がいた。川口さんと妻、長男は不在だった。川口さんをよく知る人物はこう話した。

「(長女の小5女児は)小学校から帰って、宿題をしているところだった」

 長女は墜落音を聞いて外に飛び出し、同じ敷地内の家に住む川口さんの母親(69)と逃げた。墜落現場から約100メートルの場所には幼稚園や保育園、約300メートル先には市立小学校があった。

●回転翼が上空で分離

 ある自衛隊パイロットは、「万が一、墜落する状況になっても、ぎりぎりまで操縦して人口密集地や民家を避け、河川敷や川などに向かい、住民の被害が出ないようにと心がけている」と語る。今回の事故はドライブレコーダーの動画や目撃情報から、ほぼ垂直に落ちていて、回避行動も間に合わなかったように見える。こうしたことから事故原因について浮上しているのが、上空でのメインローター(主回転翼)の分離だ。事故機は飛行前に羽根を機体につなぐ「メインローターヘッド」を交換していた。墜落現場の住宅の敷地からは、4本のメインローターのうち2本を発見。現場から南東に約500メートル付近の用水路から、1本が見つかった。

 専門家は一様に「メインローターが空中で分離する事故は聞いたことがないし、考えられない」(中日本航空)と首をかしげる。ヘリコプターの整備を手掛ける匠航空の森岡匠代表は、考えにくい理由をこう話す。

「メインローターヘッド交換のような整備は数人がかりでやり、テスト飛行前にも正常に取り付けられたかをローターを動かしながら地上で入念に確認します。その際に何らかの整備不備があれば振動計などに異常が出る。万一、見逃してそのまま飛んだとしても、すぐに操縦士が異変に気がつき予防的に着陸するはずです」

●同様の事故が複数回

 今回の事故について、欧米のパイロットらが集うインターネット上のサークルとして知られる「PPRuNe」では、早速こんなやり取りが交わされていた。

「メインローターが分離するなんて、ガルベストン湾とフォートキャンベルで起きたそれぞれの事故にそっくりだ」

「原因はストラップパックの不良では? ボーイングは繰り返し起きるこの問題に、もっと熱心に対処してほしいと願うよ」

 国内の航空専門家の間ではメインローターが分離する事故は極めて異例とされているが、実は米国では今回事故を起こしたAH64と同系統の機種で同様の事故が複数回起きていた。

●整備不良か機体の問題

 1度目は15年12月。ケンタッキー州にあるフォートキャンベル陸軍基地を飛び立ったAH64Eが訓練飛行中にメインローターが外れて墜落炎上し、乗員2人が死亡した。事故原因は整備不良だった。この事故を取材した米国紙「USAトゥデー」のステファニー・インガーソル記者は、本誌の取材にこう話す。

「事故を起こした機体は事故の50時間前にローター部の部品を交換した際に正しく組み付けられず、部品に負荷がかかった結果としてメインローターが空中で分解しました」

 米軍の調査報告書は、ロワーロッドと呼ばれるローター部を支える部品の一部にベアリングがしっかり固定されなかったためにロッド1本が破損してメインローターが分離したと断定。部品を交換した3人の整備士と検査員に責任があるとした。

 その1年後の16年12月には、やはり飛行中にメインローターが外れたAH64がテキサス州のガルベストン湾に墜落し、乗員2人が亡くなっている。

 事故の目撃者は、地元テレビ局の取材に「大きな音が聞こえたので空を見上げると、ヘリが旋回しながら機首を下に向けて落ちてきた。その直後にローターも落下してきた」と証言。海に落ちた機体を撮影した別の目撃者は「羽根の1枚はなくなっていた」と話すなど、今回の事故と状況が似ている。このときの事故原因は、メインローターヘッド部にある「ストラップパック」と呼ばれるV字形をした部品の不良によるものだった。

 何度か同様の事故が起きているということは、整備不良に加え、部品の設計を始めとする機体側の問題はなかったのか。航空機の事故をまとめた「アビエーション・セーフティー・ネットワーク」によると、00年から現在までに世界中で起きたAH64の事故は101件。原因は操縦ミスなどのヒューマンエラーが多いが、なかには整備ミスや部品の不具合もあった。

 AH64はボーイング社が設計し、世界各国の軍隊に導入されている。ボーイング日本支社の広報担当者に今回の事故と米国で起きたAH64の事故について尋ねたが、「弊社からお答えすることはありません」との回答だった。

●途中で生産打ち切り

 軍事ジャーナリストの清谷信一さんは、当初62機導入される計画だったのに、生産打ち切りで13機にとどまったAH64Dについて、こんな指摘をする。

「先進国ではすでに新型AH64Eを導入しており、D型では仮に有事になっても他国とネットワークの連携をとれない。稼働できるアパッチは5、6機に過ぎず、部隊としては戦う前から終わっている。今後の増数やE型へのアップグレードも発表されていない中、お金ばかりがかかり戦えない戦力が事故を起こしてしまった。事故をキッカケに防衛について根本的に考える必要もあるだろう」

(編集部・澤田晃宏、ジャーナリスト・桐島瞬)

※AERA 2018年2月19日号
サイトで見る
Outbrain