小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』では、各界の著名人が交代で本を紹介する「ブックウェーブ 私の3冊」を連載しています。今回は中野京子さん。テーマは「本当のシンデレラ」です。

中野京子著『別冊NHK100分de名著 読書の学校 シンデレラ』(NHK出版)※筑波大学附属中学校での特別授業をもとに書き下ろしたもの
中野京子著『別冊NHK100分de名著 読書の学校 シンデレラ』(NHK出版)※筑波大学附属中学校での特別授業をもとに書き下ろしたもの
中野京子著『別冊NHK100分de名著 読書の学校 シンデレラ』(NHK出版)※筑波大学附属中学校での特別授業をもとに書き下ろしたもの
中野京子著『別冊NHK100分de名著 読書の学校 シンデレラ』(NHK出版)※筑波大学附属中学校での特別授業をもとに書き下ろしたもの

■継母は実は実母だった!? 灰まみれの理由は?

「世界一有名なヒロイン」と呼ばれるシンデレラ。みなさんが思い浮かべるのは、ディズニーアニメのイメージではありませんか?

 もともとのシンデレラは口承文芸で、類話は世界中になんと500以上あると言われます。今に残る最古の文献は9世紀の中国なので、もし発祥地も中国だったなら、シンデレラは纏足(女性の足を成長期に布できつく縛り、人工的に小さいままにした風習)だった可能性も否定できません。現代人が思い浮かべる西洋的シンデレラに、アジアの香りが入っているのはちょっと意外ですね。

 昔話は一見単純なストーリーに見えて、その背後には膨大な歴史を隠しているのです。そうした形が残っているのがグリムのシンデレラ。魔法使いは登場せず、彼女は成功に向かい知力をふりしぼって行動し、運をつかみ、復讐も果たします。まさに庶民の夢そのものと言えましょう。

 一方、17世紀の宮廷詩人ペローは、素朴だったストーリーを華やかな独創性で彩りました。おっちょこちょいの魔法使い、カボチャの馬車、ガラスの靴、12時のタイムリミットは、すべてペローの詩心が生み出したすばらしいファンタジーなのです。その代わりシンデレラの性格から個性が失われ、当時の宮廷婦人にふさわしい言動に終始します。他力本願が幸せを呼ぶわけです。

 ディズニーはペローの内容を元にしました。このアニメにおける最大の見どころが、楽しいミュージカル仕立ての魔法シーンなのは言うまでもありません。

 グリムとペローとディズニー、3種のシンデレラ物語を比べるだけでも興味深いことですが、どこかの村で生まれた短いお話が世界中に伝わり、定着してゆく過程を知るのも、スリリングと言えます。

 シンデレラが灰にまみれているのはなぜか、継母は実際には実母だったのではないか、なぜ魔法が解けたのに靴だけ残ったのか、意地悪な姉たちに対し、グリムのシンデレラが残酷な復讐をするのに、ペローのシンデレラが許したのはなぜか……。

 いくつもの謎を解くためには、物語の表面を見るだけではなく、先述した背後の歴史にも目を向けなければなりません。みなさんも一緒に考えてみてください。

【中野京子さんの3冊】
(1)『別冊NHK100分de名著 『書の学校 シンデレラ』
中野京子/著(NHK出版 864円)
※筑波大学附属中学校での特別授業をもとに書き下ろしたもの

(2)『グリム童話全集』(全3巻)
グリム兄弟/編、高橋健二/訳(小学館 1944円)
→ドイツのグリム兄弟が編纂。古くから民衆の間で語り継がれた200話以上のストーリー。「かえるの王さま」「白雪ひめ」「ヘンゼルとグレーテル」などは、日本だけでなく世界中の絵本の定番と言えます。シンデレラのタイトルは「灰かぶり」

(3)『完訳 ペロー童話集』
新倉朗子/訳(岩波文庫 842円)
→17世紀の宮廷詩人ペローによって描かれた華やかで独創的な物語。「眠れる森の美女」「赤ずきんちゃん」「長靴をはいた猫」など、子どもばかりでなく大人も楽しめる読み物になっています。シンデレラはフランス語読みにした「サンドリヨン」がタイトル。

(表示価格は消費税を含んでいます)

※月刊ジュニアエラ 2018年1月号より

ジュニアエラ 2018年 01 月号 [雑誌]

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AERA dot.編集部
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