黒人初の大統領としてアメリカを率いた、バラク・オバマ氏。8年に及びオバマ政権の成果は?毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞国際報道部・杉崎慎弥さんの解説を紹介しよう。

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 バラク・オバマ氏は、2009年からの2期8年間、大統領としてアメリカを率いた。ケニア人を父に持つハワイ生まれのアフリカ系アメリカ人で、黒人初の大統領となったオバマ氏。「携帯メール中毒」で、ジョーク好きという親しみやすい性格で人気を集めたが、一番のセールスポイントは巧みな演説や、人を引きつけるカリスマ性、そして「イエス・ウィー・キャン(そうだ。われわれはできるんだ)」という前向きな合言葉だった。

 オバマ政権の8年間を振り返り、レガシーとして特に注目され、歴史に刻まれそうなのが、核兵器廃絶への取り組みだ。

 就任直後の09年4月、オバマ氏は、チェコの首都プラハで「核のない、平和で安全な世界をアメリカが追求していくことを明確に宣言する」と演説し、国際社会から称賛された。この発言が「未来への希望を与えた」と評価され、同年、ノーベル平和賞を受賞した。

 さらに、核兵器がテロリストなどに拡散しないようにする対策を議論する「核保安サミット」を立ち上げ、イランとは核開発を制限することで合意にこぎ着けた。16年5月には、現職のアメリカ大統領として初めて被爆地・広島を訪問。被爆者とふれあったほか、演説で核なき世界を目指す決意を改めて示した。そして、安倍晋三首相が12月に真珠湾(※注)を訪問した。

 ただ、オバマ氏が描く「核なき世界」はスローガンに過ぎないとの批判もある。アメリカは約7千発の核兵器を保有し、世界には1万5千発以上あるとされる。また、オバマ政権は、北朝鮮が具体的な非核化措置をとるまで交渉に応じない「戦略的忍耐」という政策をとったが、成果は出ず、北朝鮮は核実験やミサイル発射を繰り返した。

 ジョージ・ブッシュ政権(01~09年)と違って、国際社会との協調を深めたのもオバマ外交の特徴だ。断絶が続いていたキューバとの国交を54年ぶりに回復。地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の締結も主導した。国内では、低所得者らが医療を受けられるようにした医療保険制度改革(オバマケア)もある。だが、ドナルド・トランプ次期大統領は多くに反対していて、オバマ氏のレガシーが否定されてしまう可能性もある。(解説/朝日新聞国際報道部・杉崎慎弥)

(※注)アメリカのハワイにある真珠湾は、1941年12月8日(日本時間)、日本軍がアメリカ軍を攻撃して太平洋戦争が始まるきっかけになった場所。

【キーワード:レガシー】
遺産。ここではアメリカ大統領の歴史に残るような政策や外交のことをいう。残りの任期が少なくなると、次の大統領選挙のことを気にする必要がなく、大胆な政策を実行できるため、歴代の大統領たちのレガシーもこの時期に行われたものが多い。これまでも、冷戦時代には、就任当初、ソ連(現在のロシアなど)を「悪の帝国」と呼んでいたレーガン大統領が、ソ連のゴルバチョフ書記長との対話に転じて会談を重ね、冷戦終結(1989年)への道筋をつけた。

※月刊ジュニアエラ 2017年2月号より

ジュニアエラ 2017年 02 月号 [雑誌]

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AERA dot.編集部
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