大統領選挙は、政党の候補者を決める予備選挙を含めると1年以上の長丁場で、選挙にかかる費用は莫大だ。たいてい候補者は企業などから献金を受ける。しかし、トランプ氏は金持ちなので、選挙費用の大半を自分で出した。対する民主党候補のヒラリー・クリントン氏は、元大統領の妻で国務長官を務めるなど、華麗な経歴が武器だった。

 今回の選挙では、ラストベルトといわれる地域などに住む白人労働者層がトランプ氏を勝利に導いたといわれている。彼らにもっとも訴えたのは、アメリカに雇用を取り戻すということだった。経済がグローバル化し、安い労働力を求めて工場がアメリカから中国やメキシコなど外国に移り、アメリカ人が仕事を失った。トランプ氏は、こうした状況は、一部だけで富を独占する、首都や都会の政治家や金持ちなどの「エスタブリッシュメント(既得権層)」がつくった、と訴え続けた。

 さらに、メキシコとの国境に壁を建設し、不法移民を追い出すなどと、普通の政治家が言わないような過激な発言を何度もした。だが、移民に仕事を奪われたと感じる白人労働者層から「本音で語っている」と大きな支持を獲得し、また、多くの隠れトランプ票もあったと考えられている。

 クリントン氏は、国務長官時代に私用メールで機密情報をやりとりしていた問題が最後まで影響した。トランプ氏も「うそつき」「刑務所に送る」などと批判を続けた。結局、8年続いたオバマ政権を継承するクリントン氏の政策より、変化が望まれ、トランプ氏が大接戦を制した。

 トランプ氏の政治的手腕は未知数だ。訴えた政策も「インフラ整備に5500億ドル(約58兆円)投資」「税率の引き下げ」など、財源に根拠がない上に具体性のないものばかりだ。

 すでに、軌道修正を表明した政策もある。廃止を訴えてきた医療保険制度改革(オバマケア)については、一部を残して修正するとしている。

 日本にも影響がありそうだ。トランプ氏は自由貿易がアメリカから仕事を奪ったと主張。アメリカや日本が進めてきた環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱すると宣言した。

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