昨年9月に成立した安全保障関連法(安保法)によって、自衛隊は「駆けつけ警護」で新たに武器が使えるようになった。自衛隊の任務はどう変わるのだろうか。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、NPO法人「国際地政学研究所」の柳澤協二さんの解説を紹介しよう。
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南スーダンは、2011年にスーダンから分離・独立した「最も新しく、貧しい国」だ。国際連合(国連)は、その国づくりを支援するPKO(国連平和維持活動)を行っており、日本も、12年から参加。陸上自衛隊を中心に、現在約350人を派遣している。
現地には、排水溝を備えた道路がなかったため、雨期には道路が使えない状態だった。自衛隊は、こうした道路の整備・改善などに貢献してきた。
昨年9月に成立した安全保障関連法(安保法)によって、自衛隊は「駆けつけ警護」で新たに武器が使えるようになった。今年9月には新たな武器使用の訓練を始めており、政府が11月以降南スーダンに派遣する陸上自衛隊の部隊に、この任務を与えるかが、現在検討されている。
これまで、海外に派遣された自衛隊の武器使用は、自分が襲われたときに身を守る最後の手段として必要な場合に限られていた。自衛隊の任務も、道路の整備など、それ自体は武器を使わないものに限定していた。
だが、「駆けつけ警護」は、離れた場所で国連関係者などが武装勢力に襲われた場合、その現場に「駆けつけて守る」任務である。武装勢力に向かって武器を使うことが必要になり、戦闘になることも予想される。
自衛隊の武器使用については、「正当防衛に当たる場合以外は、相手に危害を加えてはならない」とされているため、先制攻撃ができない。このため、せっかく駆けつけても武装勢力が攻撃してくるまでは武器は使えず、民間人を巻き込み、かえって危険になることもありうる。
また、誤って人に危害を加えた場合には、さらに大きな問題がある。憲法9条では国際紛争を解決する手段として、武力の行使は禁止しているため、武器使用は法律上、自衛隊という組織ではなく、自衛官個人の判断で行うという建前となる。個人の判断で相手を殺害すれば、その責任は、自衛隊員個人が負うことになる。
こうした活動を実際に行えば、自衛隊員の被害や精神的負担は計り知れないものとなる。同時に、これまで海外で一人も殺していない自衛隊と、それを送り出した日本国民が、武装勢力の敵意の的になることも心配される。(解説/NPO法人「国際地政学研究所」・柳澤協二)
【キーワード:南スーダン】
193番目の国連加盟国。南スーダンでは、2013年末から、大統領派(政府軍)と反対派の間で戦闘が発生している。これまで、何度も停戦が合意されたが、対立が収まる気配はない。現在も、自衛隊がいる首都ジュバでは銃撃戦が続き、自衛隊の施設に流れ弾が飛んでくることもある。また、兵士による婦女暴行事件も多い。
※月刊ジュニアエラ 2016年11月号より